No.216
1999.3

ISASニュース 1999.3 No.216

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ロケット・衛星の電波の今昔

横山幸嗣  

 私と宇宙通信電波の関わりは,東大生研のカッパーロケット時代からですから39年になります。

 生研の頃,道川でのK-8-5ロケット実験のテレメータ班に参加したのが最初ですが,当時のテレメータ送信機は,真空管(ミニチュア管)で構成されたVHF帯(225MHz)を主搬送波とした5チャネルFM-FM方式でした。その後,観測ロケットの発展と共に多目的の観測が行われるようになりチャネル数の増大の希望から,新たに300MHz帯4波のテレメータ電波の割り当てを受け(現用),送信機も水晶制御方式で全トランジスタ化されましたが,初期の頃はまだ安定度に問題があって夜遅くまで残業の常連であったことも懐かしい思い出です。その後ロケットにテレビジョン送信機をのせ地上に情報をおくるとか,多数の観測量を誤りなく処理するためPCMテレメータ方式などが開発されて,S帯(2GHz)K帯(15GHz)のより高い周波数を用いるようになっています。

 科学衛星の通信は,VHF帯(136MHz)UHF帯(400MHz)の送信機とVHF帯(148MHz)の受信機が最初の衛星から1984年の(おおぞら)に至るまで使用されました。また(おおぞら)ではS帯(2GHz)の受信機を初めて搭載しましたが,1985年のハレー彗星探査機(さきがけ)(すいせい)ではコマンドもS帯(2GHz)を用いると共に,距離及び距離変化率計測方式と併せて衛星追跡が高精度高感度化されました。この時期,長野県臼田に建設された64mアンテナと深宇宙追跡管制設備の開発に参加し,地球から1億km以上はなれた深宇宙の軌道上の探査機との間に通信が確保され大変高性能であったのも嬉しい経験の一つです。その後,衛星は長寿命化し,ミッションの長期間化する傾向にあって複数の衛星を追跡運用するようになり,1987年(ひてん)以降の衛星では宇宙研究周波数のS帯(2GHz)X帯(8GHz)3波の送受信周波数の割り当てを受け,科学衛星のミッション毎に調整して用いるようになりました。地上局では,1989年の秋に新しいS/X帯周波数に対応した20mアンテナと科学衛星追跡設備がKSCに建設され,現在も(ようこう)(あすか)(GEOTAIL)(はるか)衛星の運用に供されています。また1998年11月には34m大型アンテナのS/X/K帯衛星追跡設備が新たに完成し,20m34mアンテナで衛星の分担,追跡の重複の解消が可能になり,2局体制で運用が出来るようになりました。

 私もこの3月で退官となりますが,これまでロケット,衛星観測の発展にそって新しい通信周波数帯の開発とお付き合いできたことを大変幸せに感じています。

 宇宙研究の通信の世界においても,最近の大変賑わしております移動体衛星携帯電話など,S帯が商用として需要の多い帯域であることから限られた周波数の有効使用を考え(郵政省の立場?)将来の科学衛星の通信としてより高い周波数帯のKu帯さらにKa帯(20-40GHz)の開拓を是非進めてほしいものです。

 ところで34mパラボラアンテナは,三菱電機Y氏の算出によると349万リッター,約194万本分の容量の“いも焼酎”が入るそうです。(20mアンテナは78万リッター10mアンテナは5,7万リッターの容量)。この34mアンテナ盃の“いも焼酎”を飲み干すには,ミューロケット実験の祝い酒も何年いや何十年と続けられそうですね。それにしても凄い量が入るものです。

 最後にこのところ20mアンテナは4衛星の追跡管制で休む暇もない運用となっています。高い稼働率で休肝日(運休日)のないデータの飲み過ぎは体調(機能,性能)低下による2日酔い(運用中止)のもととなりますので,長期に働けるように定期的に健康診断(保守,点検)が必要であることを関係の方々,是非考えて頂きたいと思います。

(よこやま・こうじ)



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