No.201
1997.12

ISASニュース 1997.12 No.201

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第12回 「シンクロトロン放射」

宇宙科学研究所   槇野文命



 電子を磁場の中で運動させると,電子の進行方向と磁場の方向に直角な方向の力を受ける。これをローレンツ力という。この力は電子に円運動をさせる力となり,電子は磁力線の周りを回転する。電子が円運動をすると,電波を放射する。電子の速度が光速よりも十分遅い時の電波の強度分布は図に示すように,電子の進行方向とその反対方向に対称な8字型となる。放射される電波の周波数は電子の円運動の回転周波数と同じになる。電子の速度が光速に近くなると,相対論的な効果のため,電子が近づいて来る時には強度が強く,遠ざかる時には弱くなる。これは,電波の周波数がもはや回転周波数だけではなく,高調波(回転周波数の整数倍の周波数の電波)を含んでいることを意味する。つまり,このような歪んだ波は回転周波数の波と高調波の重ね合わせで表すことができるからである。電子の速度がさらに大きくなり,ほぼ光の速度に達した時には,さらに極端になり,電子が近づいて来る短い時間だけ観測され,それ以外の時は観測されなくなってしまう。このような電波は周波数でいうと,回転周波数の高調波を無数に含んでいることになり,連続的な周波数分布になっている。これをシンクロトロン放射という。シンクロトロンというのは電子や陽子を光速に近い速度に加速する装置である。加速器で加速された電子からの放射をシンクロトロン放射光といい,理工学の研究に広く利用されている。シンクロトロン放射では,電子の速度と磁場の強さに従って,電波からX線までのあらゆる波長の強い電磁波を発生することができる。

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 シンクロトロン放射は宇宙では電波の発生の原因として極めて重要である。1948年,かに星雲からの強い電波放射が発見された。放射は可視光,後にはX線まで続いていることがわかった。ロシアのシュクロフスキーが,この放射がシンクロトロン放射であることを指摘したが,1955年,予想通りの強い偏波(波の振動面がそろっていること)が観測され,シンクロトロン放射説の確立となった。かに星雲は1054年に爆発した超新星の跡としてよく知られているが,この中心から1968年にパルサーが発見された。パルサーは強い磁石を持ち,高速で回転している中性子星である。近傍の強い電磁場で加速された電子による磁極でのシンクロトロン放射がパルスとして観測される一方,電子は外へ拡散し,広がったシンクロトロン雲をつくる。さらに大規模なシンクロトロン放射は銀河や電波銀河,活動銀河核に見られる。銀河電波は高エネルギーの宇宙線電子が銀河内の弱い磁場で放射するものである。活動銀河核からは高速の粒子がジェットとして噴出しており,ジェットと薄い銀河間ガスの衝突で発生した高エネルギー電子によるシンクロトロン放射が超光速運動をする電波雲や大規模な電波ローブとして観測される。活動銀河の中心核からは電波からX線まで,シンクロトロン放射で放射しているものもある。シンクロトロン放射は太陽フレアをはじめあらゆる天体に見られる重要な放射過程である。


Astronomy : from the Earth to the Universe Fourth Edition
by Jay M. Pasachoff Saunders College Publishing

(まきの・ふみよし)


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