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瞬くオーロラの謎  〜小型高機能科学衛星「れいめい」の観測とコンピュータシミュレーションによって、脈動するオーロラの仕組みを解明〜

 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と名古屋大学などの研究グループは、JAXAの小型高機能科学衛星「れいめい」の観測データの分析と、名古屋大学などにおいて実施したコンピュータシミュレーションの結果、「コーラス」と呼ばれる宇宙の電磁波がオーロラを引き起こす電子を変調させることで、オーロラの瞬きを作りだしていることを解明しました。

 オーロラは宇宙から降ってくる電子が高度100km付近の超高層大気と衝突することによっておこる現象です。脈動オーロラと呼ばれる数秒ごとに明滅するオーロラは、1秒間に数回瞬くという不思議な性質がありますが、何が瞬きを作り出しているかはわかっていませんでした。
 本研究では、宇宙の電磁波がオーロラを引き起こす電子を変調させることで、オーロラが瞬く仕組みを解明しました。「コーラス」という電磁波は、音声に変換すると小鳥の声のように聞こえることから、宇宙のさえずりとも呼ばれます。本研究では、この宇宙のさえずりがオーロラの瞬きを引き起こしていることを解明したもので、明滅も同じ仕組みで起きていることを示唆する結果です。また、本研究で示された電磁波による電子の変調過程は、平成28(2016)年度に打ち上げられる予定の「ジオスペース探査衛星(ERG)」によって、さらにその性質の理解が進むことが予想されます。
  本研究の成果は9月29日発行の米国地球物理学連合誌に掲載されます。


【小型高機能科学衛星「れいめい」】
 小型高機能科学衛星「れいめい」(INDEX)は、平成17(2005)年8月24日に、ドニエプルロケットのピギーバック(相乗り)衛星としてカザフスタン共和国バイコヌール宇宙基地から打上げられた小型衛星です。
 最先端の衛星技術の軌道上実証を短期間に行い、小型衛星に適した理学観測機器を搭載して世界最先端の科学成果を得ることが目的です。これら機器によって世界最高の時間分解能(※)による電子の観測と、世界で唯一のオーロラの画像とオーロラを光らせる電子の同時観測を行うことができます。

※観測対象に識別が可能な変化を生じさせる最少の時間変化量のことで、この量が小さいほど時間分解能が高いとされる。時間分解能が高いと高速度で変化する画像の識別が可能となる。


小型高機能科学衛星「れいめい」(INDEX)

小型高機能科学衛星「れいめい」(INDEX)


参考資料

概要

 オーロラは、宇宙から降ってくる電子が、高度100km付近の超高層大気と衝突することによって起こる現象です。オーロラには、様々な形態のものがあり、そのなかでも脈動オーロラと呼ばれるオーロラは、ぼんやりとした形状で、図1のように数秒間ごとに点滅するという不思議な性質があります(主脈動)。また、主脈動が光っている間には、1秒間に数回の速さで瞬く(明るさが変化する)ことも知られています(内部変調)。どのようなメカニズムで脈動オーロラの明滅や瞬きが起こるのか、いろいろな説が提唱されていますが、いずれも主脈動と内部変調を統一的に説明することができませんでした。

 名古屋大学太陽地球環境研究所の三好由純准教授らのグループは、脈動オーロラの明滅と瞬きが、「コーラス」と呼ばれる宇宙空間で自然に発生している電波と電子との相互作用によって引き起こされていることを初めて明らかにしました。研究グループは小型高機能科学衛星「れいめい」によって取得されたデータを詳細に分析しました。「れいめい」は世界で最も高い時間分解能でオーロラを光らせる電子を観測することができます。また、コーラスと電子の相互作用についてコンピュータシミュレーションを行い、脈動オーロラの観測結果を再現することに成功しました。

 コーラスは「宇宙のさえずり」とも呼ばれ、音声に変換すると小鳥のような音として聞こえます。コーラスの発生機構は、2016年度に打上げられるジオスペース探査衛星(ERG)によって解明されることが期待されており、本研究の成果は、ERGの科学へとつながる意義も持っています。

 この成果は、米国地球物理学連合の発行する論文誌「ジャーナル オブ ジオフィジカル リサーチ」に、9月29日に掲載されます。

背景

オーロラは、宇宙から降ってくる電子が、高度100km付近の超高層大気と衝突することによって起こる現象です。オーロラには、様々な形態のものがありますが、脈動オーロラと呼ばれるオーロラは、ぼんやりとした形状で、図1のように数秒間ごとに点滅するという不思議な性質があります(主脈動)。また、その脈動オーロラが光っている間には、1秒間に数回の速さで瞬く(明るさが変化する)ことも知られています(内部変調)。主脈動の起源については理解が進んできているものの(文献1)、主脈動と内部変調を統一的に説明できるアイデアはなく、どのような仕組みで脈動オーロラの明滅や瞬きが起こるのかわかっていませんでした。

文献1: Nishimura et al., Identifying the driver of pulsating aurora, Science, 330, 81-84, 2010.

研究の内容

 名古屋大学太陽地球環境研究所の三好由純(みよしよしずみ)准教授、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の浅村和史(あさむらかずし)助教らの研究グループは、「れいめい」のデータ解析とコンピュータシミュレーションによって、この脈動するオーロラの主脈動と内部変調のメカニズムを明らかにしました。「れいめい」は、世界で最も高い時間分解能でオーロラを光らせる電子を計測することができます。さらに世界で唯一、オーロラと、そのオーロラを輝かせる電子の同時観測が可能な科学衛星です。

 本研究では、この「れいめい」の観測データを詳細に分析し、脈動オーロラを光らせている電子にこれまで知られていない性質があることを発見しました。さらに、コーラスと呼ばれる宇宙空間で自然に発生している電波と、電子との相互作用についての計算(コンピュータシミュレーション)を行い、「れいめい」の観測結果を再現することに成功しました(図3)。この研究の結果、コーラスが電子を変調させることで、脈動オーロラの明滅や瞬きを作りだしている統一的な仕組みを明らかにしました (図4)。

成果の意義

 コーラスという宇宙空間の電波は、音声に変換すると小鳥の声のように聞こえることから、宇宙のさえずりとも呼ばれます。本研究は、この宇宙のさえずりが、脈動オーロラの明滅や瞬きを引き起こしていることを解明したものです。このコーラスが発生するのは、高度数万km上空の宇宙空間であると考えられています。2016年度に打上げが予定されているJAXAのジオスペース探査衛星(ERG)には、このコーラスが発生する様子を世界で初めて直接観測するための新型の装置が搭載されており、脈動オーロラの起源である宇宙のさえずり(コーラス)の性質が解明されることが期待されています。

論文名

題目: Relation between energy spectra of pulsating aurora electrons and frequency spectra of whistler-mode chorus waves
著者:三好由純(名古屋大学)、齋藤慎司(名古屋大学)、関華奈子(名古屋大学)、西山尚典(国立極地研究所)、片岡龍峰(国立極地研究所)、浅村和史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、加藤雄人(東北大学)、海老原祐輔(京都大学)、坂野井健(東北大学)、平原聖文(名古屋大学)、大山伸一郎(名古屋大学)、栗田怜(名古屋大学)、O. Santolik(チェコ科学アカデミー)
掲載誌:米国地球物理学連合誌:Journal of Geophysical Research (オンライン)に2015年9月29日に掲載。

研究チーム

三好 由純 名古屋大学太陽地球環境研究所 准教授
齋藤 慎司 名古屋大学理学部 特任准教授
関 華奈子 名古屋大学太陽地球環境研究所 准教授
西山 尚典 国立極地研究所 助教
片岡 龍峰 国立極地研究所 准教授
浅村 和史 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 助教
加藤 雄人 東北大学大学院理学研究科 准教授
海老原祐輔 京都大学生存圏研究所 准教授
坂野井 健 東北大学大学院理学研究科 准教授
平原 聖文 名古屋大学太陽地球環境研究所 教授
大山伸一郎 名古屋大学太陽地球環境研究所 講師
栗田 玲 名古屋大学太陽地球環境研究所 日本学術振興会特別研究員(PD)
O. Santolik チェコ科学アカデミー(チェコ共和国)部門長

用語説明

脈動オーロラ:オーロラの一形態。ぼんやりとしたパッチ的な形状で、数秒間に1回明滅している。
 また、光っている間に、1秒間に数回瞬く(明るさが変化する)という性質がある(図1)。

コーラス:宇宙空間に自然に存在する電波の一種。周波数が数kHzの可聴帯の電磁波で、音声に変換すると、”小鳥のさえずり”にように聞こえる。

小型高機能科学衛星「れいめい」:宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が2005年に打上げた小型高機能科学衛星(62x62x72cm, 72kg)。世界で唯一、オーロラの画像とオーロラを光らせる電子の同時観測が可能な衛星。また、世界で最も高い時間分解能で電子を計測することが可能(図2)。

ジオスペース探査衛星(ERG):宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が進めている人工衛星計画。2016年度にイプシロンロケットで打上げ予定。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。

科研費等

本研究は、主に以下の科学研究費補助金の助成を受けています。
15H05815: 新学術領域研究 「地球電磁気擾乱現象の変動と予測」
15H05747: 基盤S [極限時間分解能観測によるオーロラ最高速変動現象の解明]

図版

脈動オーロラ

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脈動オーロラ

図1 脈動オーロラ
数秒に1回、明滅するオーロラ。オーロラが明るく光っている時間に、さらに1秒間に数回の瞬き(明るさの変化)があることが知られている。
2007年10月18日に「れいめい」によって観測された脈動オーロラ(左) 11:35:21秒、(右) 11:35:24秒



「れいめい」による観測の模式図

図2 「れいめい」による観測の模式図
高度620kmから、高度100km付近で光っているオーロラを連続観測するとともに、そのオーロラを光らせている電子を40ミリ秒ごとに観測する。 [画像クリックで拡大]



「れいめい」が観測した明滅オーロラを起こす電子の分布と、コンピュータシミュレーション

図3 「れいめい」が観測した明滅オーロラを起こす電子の分布と、コンピュータシミュレーション
観測された脈動オーロラ電子の分布を、コンピュータシミュレーションで再現しました。[画像クリックで拡大]



本研究によって明らかになった、脈動オーロラの明滅と瞬きの仕組み

図4 本研究によって明らかになった、脈動オーロラの明滅と瞬きの仕組み

2015年9月28日