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超巨大ブラックホールが引き起こす銀河スケールの物質流出

 米国メリーランド大学の研究者を中心とするチームは、X線天文衛星「すざく」の観測データなどから、超巨大ブラックホールが大量の物質を勢いよく飲み込む際、ブラックホールから外向きに強力な「風」が発生し、それが銀河スケールで起こる物質流出の原因であることを初めて見出したとの報告を行いました。「すざく」に搭載されたCCDカメラにより取得した分光データを詳細に解析することで、中心の巨大ブラックホールのごく近傍から、毎年、太陽1.5個分の質量で、光速の30%にも達する活動銀河核風が吹き出していることがわかったとのことです。さらに、中心のブラックホール活動と銀河内の物質の相互作用は、銀河の星形成活動にも影響を及ぼすと述べています。 本研究成果は、銀河中心のブラックホールの活動が銀河進化を理解するための鍵となることを示唆しています。

 本研究成果は、平成27(2015)年3月26日に出版された英国科学雑誌Natureに掲載されています。


超巨大ブラックホールの周辺の様子を表す想像図

超巨大ブラックホールの周辺の様子を表す想像図です。中心のブラックホール周辺では集められた物質同士の摩擦で高温となり、強烈な電磁波が放射されています。その放射圧によって物質が押し出され、周囲の物質とぶつかったところで活発な星形成活動が起こっていると考えられます。[画像クリックで拡大]

解説

 我々の比較的近くにある銀河の中には、銀河の中心から、一年間に太陽1000個分にも相当するほど大量のガスや塵を宇宙空間へ放出しているものがあります。何が原因で大量の物質流出が起こっているのか、天文学者はこの疑問に対する答えを長年探し求めてきました。

 銀河スケールでの物質の流出の原因として、主に二つの仮説がありました。一つ目は中心の巨大ブラックホールの活動が原因というもの、もう一つは活発な星形成活動が原因というものです。

 アメリカのメリーランド大学の研究者を中心とするチームは、X線天文衛星「すざく」と、ハーシェル宇宙望遠鏡(欧州宇宙機関が打ち上げた赤外線宇宙望遠鏡)を用いて、おおぐま座の方向、地球から約23億5400万光年遠方にあるIRAS F11119+3257という銀河を調べました。この銀河は活動銀河核を持つこと、また活発な星形成活動を行っていることが知られています。活動銀河核とは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールが周囲にある大量の物質を飲み込むことによって光っている天体です。超巨大ブラックホールの巨大な引力によって引きつけられた物質が、物質同士の摩擦によって高温となり、X線や可視光などの強烈な電磁波を出すのです(図1のSTEP 0)。

 活動銀河核からの強烈な電磁波は、その強力な放射圧によって銀河中心から物質を押し出します(以下、活動銀河核風と呼びます)。そして、銀河中心から押し出された物質と周囲の物質がぶつかった場所で、たくさんの星が誕生します。大量の星が誕生している領域からは、強い赤外線が放射されます(図1のSTEP 1)。


図1:銀河中心部で星間物質に埋もれた活動銀河核がクエーサーとして輝くまでの進化の予想図

図1:銀河中心部で星間物質に埋もれた活動銀河核がクエーサーとして輝くまでの進化の予想図。[画像クリックで拡大]



 「すざく」の観測結果から、この銀河の活動銀河核風は、銀河スケールで物質流出を引き起こすことができるほど巨大なエネルギーを持つことがわかりました。

 「すざく」のCCDカメラの分光データには、IRAS F11119+3257の静止系で9キロ電子ボルト付近に、電離した鉄からと思われる青方偏移した吸収線が見られます(図2参照)。この吸収線を詳しく解析することで、中心の巨大ブラックホールのごく近傍から、毎年、太陽1.5個分の質量で、光速の30%にも達する活動銀河核風が吹き出していることがわかりました。


図2:「すざく」に搭載されたCCDカメラで取得された分光データ

図2:「すざく」に搭載されたCCDカメラで取得された分光データ。横軸はエネルギー、縦軸はスペクトルの強度比を示しています。エラーバーがついているポイントで示しているのが「すざく」で取得されたデータで、検出器によって色分けしています。緑色の線はモデルによって推測されたスペクトルです。[画像クリックで拡大]


 一方、ハーシェル宇宙望遠鏡では銀河からの比較的低温の物質の流れを観測しています。論文の筆頭著者の Francesco Tombesi博士(メリーランド大学・NASAゴダード宇宙飛行センター)は「この銀河は、活動銀河核風と大きなスケールの分子ガスの宇宙空間への流れが両方とも観測された最初の銀河です」と述べています。

 「すざく」の観測から活動銀河核風のエネルギー(正確には運動エネルギー)を見積もってみると、ハーシェル宇宙望遠鏡で観測された物質の流れを引き起こすのに十分であることがわかりました。つまり、この研究によって、初めて、活動銀河核風と銀河スケールでの物質の流出が関連しているという証拠が示されたのです。

 もう一つの仮説、つまり活発な星形成活動によって銀河スケールの物質の流出が起こっているという仮説では、この銀河の観測結果を説明できませんでした。この銀河のエネルギー放射を調べると、銀河全体からの放射の約80%は活動銀河核に由来していました。つまり、星形成活動だけでは、銀河スケールでの物質の流れを引き起こすエネルギーを賄いきれないのです。

 共同研究者のMarcio Melendez博士(メリーランド大学)は「我々の研究から、巨大ブラックホールが巨大分子流という形で銀河全体に影響を与えていることが明瞭になりました。銀河の力学や進化を考える際に、中心にある巨大ブラックホールとは切り離したいという誘惑に駆られることがあります。しかし、そのような考え方では銀河のダイナミクスや進化を正しく理解できないことが明らかになりました」と述べています。

 Sylvain Veilleux教授(メリーランド大学)は次のように解説しています。「この銀河は二つの銀河同士が衝突して、一つの銀河になろうとしているところなのです。銀河同士の衝突が引き金となって中心の巨大ブラックホールへ大量の物質が送り込まれ、ブラックホールの活動性があがって巨大なエネルギーが放射され、その結果として銀河スケールの物質流出が起こっているのだと考えられます。」数値シミュレーションによれば、このような銀河はやがて中心付近ではガスもダストもなくなってしまい、クエーサーに進化することが示唆されています(図1のSTEP 2)。

 さて、科学衛星による観測時間は限られているため、研究チームは、現時点では、このたった一つの銀河を研究の出発点とせざるを得ません。しかし近い将来、研究者たちは活動銀河核風と銀河スケールの物質流出との関連を示す銀河を、もっとたくさん見つけ出すでしょう。2015年度には、JAXAがNASAと共同で「すざく」に続く次世代のX線天文衛星ASTRO-Hを打ち上げます。研究者たちはASTRO-Hに搭載されている観測機器はIRAS F11119+3257のような銀河をもっとたくさん、もっと詳しく研究する機会を与えてくれるだろうと期待しています。


X線天文衛星「すざく」
平成17(2005)年7月10日に打ち上げられた日本の5番目のX線天文衛星です。低いバックグラウンド、高いエネルギー分解能を持つX線CCDカメラと、高い感度を持つ硬X線検出器で0.2-600キロ電子ボルトの広帯域のX線観測を行い、超新星残骸や銀河団などの広がったX線源や、ブラックホール候補天体の観測で大きな成果を挙げてきています。

X線天文衛星ASTRO-H
平成27(2015)年度に打ち上げられる日本の6番目のX線天文衛星。宇宙に豊富に存在する鉄の特性X線がある6-9キロ電子ボルトのエネルギー帯で、CCDカメラの20倍以上のエネルギー分解能を誇るX線カロリメータを搭載し、X線天文学史上、最高のエネルギー分解能での高精細分光観測の実現を目指すミッション。

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※ご使用の際は必ずクレジットを表記してください。copyright: JAXA


2015年3月27日

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