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高詳細な遠赤外線全天画像データを公開
〜赤外線天文衛星「あかり」の新しい観測データを研究者が利用可能に〜

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)/宇宙科学研究所や東京大学をはじめとする日本の各大学・研究機関、ヨーロッパ宇宙機構等の協力により打上げられた赤外線天文衛星「あかり」の全天観測データから、遠赤外線の画像データが作成され、世界中の研究者に向けて公開されました。今回完成したデータは、これまで利用されてきた遠赤外線全天画像と比較して解像度を4〜5倍向上させ、観測波長もより長い波長に広げています。画像データの作成は東京大学大学院総合文化研究科 土井靖生 助教をリーダーとし、JAXA宇宙科学研究所や国内大学および英国の研究者からなるグループにより作成され、JAXA/宇宙科学研究所からインターネットを通じて公開されています。

 遠赤外線は、星・惑星系誕生の過程を知るために鍵となる波長帯です。この画像データを用いて、星間物質の温度や分布を正確に測定したり、星間物質から星が作られ始める様子をくわしく調べたり、星間物質の背後に埋もれた宇宙背景放射の強さの分布を正確に測定するなど、天文学の非常に広い範囲の研究に貢献すると期待されます。

 遠赤外線で宇宙を観測すると、星間物質、特に低温のダストの分布を知ることができます。星や惑星は星間物質が集まった領域で誕生しますから、遠赤外線で星間物質の密度が高い領域を観測すれば星や惑星が生まれる様子を調べることができます。また、遠くから近くまでのさまざまな銀河について遠赤外線で調べることで、ビッグバンから現在に至る宇宙の歴史の中で、どの時期に多く星が作られていたかについても探ることができます。さらに、星間物質の分布を詳しく調べることは、宇宙の成り立ちを探る上でのカギとなる宇宙背景放射を精密に測定するためにも大変重要です。星間物質の出す電磁波の強さを正確に知ることで、その背後に埋もれた宇宙背景放射の強さの分布を正確に知ることができるからです。

 高感度の遠赤外線観測を行うためには、人工衛星によって宇宙から観測する必要があります。しかし、観測装置によって得たデータは、そのままでは科学的研究のためのデータとして利用することはできません。取得されたままのデータには観測装置特有の測定の偏りなどが含まれているため、データを較正(基準と照らし合わせて正すこと)しなければならないからです。研究者は、データの較正のために長い時間をかけたり苦労を強いられることもよくあります。今回完成した画像データは較正済みですので、研究者はすぐにデータを解析して、科学的研究に取りかかることができます。


図1

図1

「あかり」の観測した全天の遠赤外線画像。青:90マイクロメートル、赤:140マイクロメートルの2色合成で示す。中央に水平に伸びるのが天の川。銀河系の中心領域を画像の中心にした360°の範囲を示す。Sの字状に薄く見えるのは、太陽系内の塵による光。「あかり」は全天の99%以上の領域を観測し、詳細な全天の遠赤外線地図を描き出した。観測されなかった残り1%未満の領域が画像中に黒いスジ状に見られる。色の青いほどより温かい星間物質、赤いほどより冷たい星間物質の存在を示す。星間物質が温かい領域ほど、そこでより多くの新しい星が生まれつつあることを示す。[画像クリックで拡大]




図2

図2

「あかり」は4つの波長で遠赤外線の全天画像を作成した。図の上から順に65マイクロメートル、90マイクロメートル、140マイクロメートル、160マイクロメートルの各全天画像を示す。中央に水平に伸びる天の川が各画像で明るく見える。一方波長の長い画像は、より低温の星間物質の分布を示し、このような物質は天の川から上下方向により広がっていることがわかる。この差は90マイクロメートルと140マイクロメートルの2波長の画像の間で特に顕著である。100マイクロメートルより短波長の2画像がこれまで「IRAS」により観測されていた遠赤外線の描像、一方100マイクロメートルより長波長の2画像が「あかり」が新しく描き出した遠赤外線の全天の詳細な分布である。[画像クリックで拡大]


 図1と図2は今回完成した画像データを示しています。2006年に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」の科学的目的の1つは、赤外線で全天を観測し、より高い解像度のデータを取得することです。今回完成した画像データでは「あかり」が1年4ヶ月をかけて取得した全天の99%以上の領域に及ぶ観測データが使われています。土井らのチームは今回65, 90, 140, 160マイクロメートルの4つの波長で、解像度およそ1分〜1.5分角の全天画像を完成させました。この解像度で全天の遠赤外線画像が得られたのは世界で初めてのことです。

 これまで世界の天文学者に広く利用されて来た遠赤外線の全天画像は、赤外線天文衛星「IRAS (アイラス: Infrared Astronomical Satellite) 」 (1983年にオランダ・イギリス・アメリカが共同で打上げ。画像データの最終公開は1993年)による観測データでした。今回完成した観測データは、この「IRAS」による観測データを約20年ぶりに刷新するもので、画像の解像度が大幅に向上していることと、より長い波長までデータがそろっているという特徴があります。

 まず画像の解像度については、IRASのデータよりも空間分解能(画像の解像度)が4〜5倍向上しています。今回完成したデータを用いると、星間物質やその内部の星形成活動の分布について、より詳細な解析が可能となります。
 星を作る素となる星間物質が重力で集まると、まず大きさが数百光年に達する「巨大分子雲」を形作ります。そして、その内部に直径数十分の1光年以下の「分子雲コア」と呼ばれる特に密度の濃い領域ができます。分子雲コアの内部で星や惑星が生まれると考えられています。これまでの観測では「大きな構造の全体を詳細に調べる」ことが難しかったため、巨大分子雲から分子雲コアが生まれる過程については良く分かっていませんでした。今回完成した「あかり」によるデータは、高い空間分解能を達成していますので、「大きな構造の全体を詳細に調べる」ことができる世界で唯一のデータです。

 次に、「あかり」はIRASに比べより長い波長まで観測したという特徴があります。IRASの観測データで最も長い波長は100マイクロメートルでした。これに対し「あかり」の観測波長は160マイクロメートルまで伸びています。
 図2のとおり、65,90マイクロメートルと140,160マイクロメートルとでは明るさの分布が明確に違うことが分かります。これは短い波長の電磁波ほどより温かい星間物質の分布を示すの対し、長い波長の電磁波ほど温かい星間物質と冷たい星間物質の両方の分布を示すためです。長い波長の観測が加わることで、星間物質全体の温度と量を初めて正確に求めることができます。星を作る素となる星間物質の総量を知ることができ、また生まれたばかりの星により温められた星間物質の分布から、生まれつつある星の数と分布を知ることができます。これらはいずれも、他の波長では観測が困難な情報です。

 星・惑星形成の研究以外の分野でも「あかり」のデータが活用され、天文学の広い分野の研究の発展に貢献すると期待されます。

 本成果は、研究チームをリードした土井靖生(東京大学)ほか、2007年のプロジェクトの立ち上げ当初から完成まで係わってきた服部誠(東北大学)、検出器のバイアス変動に由来する縞状ノイズを除去するアルゴリズムの開発および実装を担当した田中昌宏(筑波大学計算科学研究センター)、データの強度較正に貢献した瀧田怜(JAXA宇宙科学研究所)など、東京大学、JAXA宇宙科学研究所、東北大学、筑波大学、英国ラザフォード・アップルトン・ラボラトリー、英国国立オープンユニバーシティの各研究者の協力により得られたものです。研究チームの構成メンバーは以下の通りです。

東京大学: 土井靖生(チームリーダー)、大坪貴文
JAXA宇宙科学研究所: 瀧田 怜、有松 亘、川田光伸、松浦周二、北村良実、中川貴雄
筑波大学: 田中昌宏
東北大学: 服部 誠
RAL/Open University: Lys Figueredo, Mireya Etxaluze, Glenn J. White
宇宙研及び東北大学在職中
に関わった方々:
森嶋隆裕、小麥真也、池田紀夫、加藤大輔

図3

図3  [画像クリックで拡大]



図3補

図3補  [画像クリックで拡大]



図4

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図4補

図4補 [画像クリックで拡大]

「あかり」の観測した天の川の拡大図。青:65マイクロメートル、緑:90マイクロメートル、赤:140マイクロメートルの3色合成で示す。ここに示されているのは南天のりゅうこつ座付近の天の川(図3)及びはくちょう座の中心領域(図4)。それぞれの画像範囲を星図中に示したものを図3補、図4補にそれぞれ示す(星図はステラナビゲータ10/(株)アストロアーツによる)。共に横20°×縦15°の範囲を示している。図1と同様に、色の青いほどより温かい星間物質、赤いほどより冷たい星間物質の存在を示している。「あかり」の観測データは天の川の中で明るく輝く新しい星が生まれつつある領域の、星間物質の詳細な分布を明らかにしている。



参考

データ公開ホームページ(研究者向け)


2015年1月15日

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