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宇宙の遠方から未知の光が届いている?
〜宇宙赤外線背景放射の大きな「ゆらぎ」を発見〜

 JAXA宇宙科学研究所と東北大学のグループは、米国カリフォルニア工科大学や韓国天文宇宙科学研究院等の研究者らとの協力のもとで実施したCIBER実験(用語1)により、宇宙赤外線背景放射(用語2)にこれまでの予測を超える大きな「空間的ゆらぎ(まだら模様)」が存在することを発見しました。
 発見した近赤外線の「まだら模様」は、普通の星や銀河等による影響だけでは説明がつかない大きなもので、宇宙には未知の赤外線光源が大量に存在することを示しています。宇宙にある未知の天体の存在について新たな仮説を必要とする新発見であるといえます。
 本研究の論文は2014年11月7日付けの米科学誌『Science』に掲載されました。

ポイント

・CIBER実験で、宇宙赤外線背景放射に大きな「まだら模様」の成分があることを発見しました。

・発見した「まだら模様」の大きさは、既知の銀河全ての影響を考慮した予測値の2倍以上あり、これを説明するためには、宇宙に未知の赤外線光源がなければならないことが示されました。

・「まだら模様」の原因となる未知の赤外線光源の候補として、系外銀河のハローと呼ばれる領域に、普通の観測では見えないほどの暗い星がじつは大量に存在するという新たな仮説を提示しました。

CIBER実験と未知の「まだら模様」の発見

 今回の成果は、NASAの観測ロケットを用いて2009年から実施しているCIBER実験のうち、2010年7月と2012年3月に撮影した赤外線観測画像から得られたものです。
 宇宙の初期を観測的に探るためには非常に遠方の銀河を観測することが必要ですが、宇宙の初期の銀河はあまりにも遠くて暗いため、すばる望遠鏡などの大きな望遠鏡を用いても個々の銀河に分解してひとつずつ詳しく観測することは難しいことです。そこで私たちは、それら暗い銀河からの光をも含む、近傍から遠方宇宙までの天体の光が足し合わされた宇宙赤外線背景放射をまとめて観測する手法を選びました。そのような観測を実現したのがCIBER実験です。
 このような観測で得られる天空からの近赤外線放射のうち約8割は太陽系内に由来します。その中から銀河系外の成分だけを抽出するのは難しいことですが、明るさ(放射の強さ)の空間分布パターンの「まだら模様」を検出することで、観測された明るさから太陽系内の影響を取り除きやすくなり、観測対象である銀河系外からの放射成分を抽出できます。個別に分解できる前景の明るい星や銀河を取り除いた後の画像には、空間的に広がった宇宙赤外線背景放射の「まだら模様」のパターンが現れています(図1)。
 CIBER実験のために私たちが開発した高感度の近赤外線カメラは、口径11センチメートルの望遠レンズに100万画素の赤外線検出器を組み合せたものです。波長1.1マイクロメートル用と1.6マイクロメートル用の2台の近赤外線カメラをNASAの観測ロケットに搭載して打ち上げ、上空200〜330キロメートルの大気圏外を飛行する約5分間に数カ所の天空の赤外線画像を撮影しました。その観測画像から波長1.1および1.6マイクロメートルの宇宙赤外線背景放射に未知の「まだら模様」が含まれていることを発見しました。
 複数の画像について様々な見かけの角度での「まだら模様」をスペクトル分析した結果、観測された「まだら模様」の大きさは、知りうる限りの全ての銀河を考慮した予測値の2倍以上も大きいことがわかりました。

未知の「まだら模様」を説明する新たな仮説

 検出された「まだら模様」のうち、小さな角度では系外銀河が、1度近い最大角度では前景の銀河系内の塵に由来する放射の空間分布が主な「まだら模様」の成分であるとして説明できます。しかしながら、0.1度ほどの角度に現れる大きなまだら模様は、既知の天体の影響では説明できないため、宇宙に存在する新たな放射成分の原因を考えなければなりません。
 私たちが発見したこの大きな「まだら模様」の原因は、まだ明らかにはなっていません。これまでに得られた赤外線天文衛星「あかり」の成果()やスピッツァー宇宙望遠鏡による結果もあわせて考慮すると、「まだら模様」の波長スペクトルは古い星(小質量星)のそれとよく似ています(図2)。そこで次のような新たな学説で説明を試みました。
 銀河の周囲には、ダークマター(暗黒物質)が広く分布するハローと呼ばれる領域があり、そこには、銀河どうしの過去の相互作用により放出された大量の星々も存在し、それらの星の光が今回私たちが観測した大きな背景放射「まだら模様」を作り出す、という仮説です。この説が正しければ、比較的近い銀河のハロー内ですらまだ観測されていない未知の星々が大量にあることになります。
 現在のところ、系外銀河のハローの星々は個々に分離して観測することはできず、光を全体的に足し合わせた背景放射としてでなければ検出できません。星の個別検出は将来の巨大望遠鏡の観測を待たなければなりませんが、宇宙赤外線背景放射の「まだら模様」の観測は、星や銀河の知られざる姿を浮き彫りにする新しい手段を提供するかもしれません。
 銀河のハローの星による説明は、現時点ではまだ正しいとは断言できません。私たちが観測した大きな「まだら模様」の成分の一部は別の原因、例えば、宇宙創成後5億年頃の宇宙再電離と呼ばれる時代の星からの光がかなり寄与している可能性があります。 また、宇宙初期や銀河系外に限らず、未知の粒子崩壊や天体現象が身近な宇宙で起こって赤外線を発しているのに、私たちはその存在に気がついていないということもあり得ます。結論するには今後もっと詳しい観測が必要です。

CIBER実験の次なる目標

 私たちの宇宙赤外線背景放射の研究は,まだ道半ばです。CIBER実験は今回の研究に用いたカメラだけでなくスペクトル測定装置も備えており、これを用いた観測成果がまとまりつつあります。「まだら模様」の情報とあわせて総合的に研究を進めることで、私たちが観測した未知の光源の起源に迫れると考えています。
 また、NASAの観測ロケットを用いた次なる実験としてCIBER実験チームに新たな研究メンバーを加えた体制でCIBER-2を計画しており、現在、観測装置の開発に力を入れています。CIBER-2では望遠鏡の口径を3倍に増大することで、CIBER実験より一桁精度の高い宇宙赤外線背景放射の「まだら模様」の測定を行ないます。銀河ハロー星の仮説の検証を行なうとともに、その向こうに見え隠れしている宇宙初期の「まだら模様」の成分をも検出することが目標です。その延長線上には、人工衛星や惑星探査機を用いた宇宙赤外線背景放射を測定するプロジェクトを展開してゆきます。


図1
図1 宇宙赤外線背景放射「まだら模様」の空間パターン

CIBER実験で測定された近赤外線(波長1.1マイクロメートル)の画像から星や銀河を取り除き、約0.1度の「まだら模様」が目立つような画像処理を行なったもの。画角は2度×2度であり、カメラの視野に等しい。(JAXA, Tohoku Univ., NASA JPL/Caltech )



図2
図2 CIBER実験の観測結果と「まだら模様」を説明する 2 つのモデル

今回のCIBER実験による新しい結果は、初代星モデル(赤線)よりもハロー星説(黄色線)を支持している。(JAXA, Tohoku Univ., NASA JPL/Caltech )

論文タイトル

On the Origin of Near-Infrared Extragalactic Background Light Anisotropy

用語解説

用語 1 CIBER実験(Cosmic Infrared Background ExpeRiment)
近赤外線での宇宙背景放射を観測するための NASA のロケット実験プロジェクト。専用に開発した望遠鏡を NASAの観測ロケットに搭載し、打ち上げて観測を行う。観測終了後はパラシュートにて望遠鏡を回収することで、複数回の観測が可能となる。2009年から 2013年の間に計4回の打ち上げ観測を実施した。詳細は以下を参照。

宇宙赤外線背景放射観測プロジェクト
http://www.ir.isas.jaxa.jp/~matsuura/darkage/index_da.html

用語 2 宇宙赤外線背景放射(Cosmic Infrared Background)
天空の観測データのうち、星や銀河などが写っていない天域の明るさを「宇宙背景放射」という。近赤外線の波長域では、太陽系内からの明るさ、私たちの銀河系内の明るさ、銀河系外からの明るさがその中に含まれている。詳細は以下を参照。

何もない空(そら)を光らせるもの:「あかり」が空の赤外線成分の分離に成功
http://www.ir.isas.jaxa.jp/AKARI/Outreach/results/PR131227/pr131227.html

参考

「あかり」が捉えた宇宙最初の星の光
http://www.ir.isas.jaxa.jp/AKARI/Outreach/results/PR111021/pr111021.html

2014年11月7日

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