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世界で初めて、小惑星ベスタが「衝効果」で急激に明るくなる現象を捉えた

 JAXA宇宙科学研究所や国立天文台などの研究者を中心とする研究チームは、国内外にある小口径の望遠鏡を用いた観測から、100年に一度、地球から見て小惑星ベスタの表面が一時的に非常に明るくなる現象「衝効果」をはっきりととらえることに世界で初めて成功しました。

ポイント

・小惑星ベスタの表面が非常に明るくなる「衝効果」をはっきりととらえることに世界で初めて成功しました。

・小惑星ベスタが「衝効果」で急激に明るくなる原因は、小惑星表面にある透明でかつ反射率の高い物質の層で光が散乱される「干渉性後方散乱」であることを突き止め、さらにその層の平均密度が初めて判明しました。

・この研究成果は小口径の望遠鏡の連携によって得られました。今後「衝効果」が起こる小惑星については、地上からの観測によって表面状態に関する情報を得られることが期待されます。

研究の背景と成果

 小惑星ベスタ(4 Vesta)は地球から見て最も明るい小惑星であり、1807年に発見されて以来、様々な手法によって観測が行われ、多くのことが判明しています。例えば、大きさや表面の反射率、自転周期などは今から100年以上前からわかっていました。また、JAXA宇宙科学研究所でもこの小惑星の研究を行い、その表面に揮発性成分を含む鉱物(含水鉱物)が存在していることの発見に至ったことがあります。(※注1)最近ではアメリカのドーン探査機が2011年から2012年にかけて小惑星ベスタにランデブーして詳細な探査が行なわれました。

 このように地上観測のみならず探査機でも数多くのことが調べられた小惑星ベスタではありますが、実はいくつかわからないことがありました。そのひとつが「衝効果」(用語1)の現象です。

 小惑星イトカワの表面に小惑星探査機「はやぶさ」の影が映った写真は脚光を浴びました。(※注2)この写真に写った探査機の影の周囲が非常に明るくなっています。これも「衝効果」という現象です。こうした現象は今から100年以上前に土星の環で発見され、月や火星でも見られます。月が満月の時にお盆のようにひときわ明るく見えるのもこの効果によるものです。特に位相角が1度以下から顕著に現れることが知られています。しかしながら、すべての天体についてこの現象が顕著に見られるわけではなく、反射率の高い木星のガリレオ衛星や同様に反射率の非常に高い幾つかの小惑星、そして月でしか知られていませんでした。

 「衝効果」の検証を行うためには、過去の他の天体の観測例から、位相角が1度以下で詳細に観測を行わなければなりません。ただし、ベスタの軌道面が地球の軌道面に対して少し傾いているために、地上の観測者にとってこの位相角が1度よりさらに小さな0.1度近くになるのは100年に1回くらいしかありません。天体の明るさを光電的に記録できるようになった1950年以降から、一度もその機会が無かったことになります。

 2006年に小惑星ベスタの位相角が0.1度近くになることに気がついた研究チームは、「衝効果」の研究のために、JAXA相模原キャンパスの屋上に仮設置された口径6.4p望遠鏡や、個人天文台である宮坂天文台の36cm望遠鏡、兵庫県立西はりま天文台の60pに同架させた7.6p望遠鏡、ウズベキスタンのマイナダク天文台の60p望遠鏡で測光観測を(図1)、また西はりま天文台にある200p望遠鏡(なゆた望遠鏡)と国立天文台岡山天体物理観測所の188p望遠鏡で分光観測を行いました。

 位相角が0.1度付近での観測の結果、小惑星ベスタの表面が急激に明るくなる現象を初めて明確にとらえることに成功しました。月やイトカワと同様にベスタ表面にも「衝効果」があったということになります。

 今回位相角が0.1度付近まで観測できたことにより、位相角1度以下で急激に明るくなる原因も探ることができ、「干渉性後方散乱」(用語2)がその原因であることを突き止めました(図2)。これはベスタが表層に付近の物質が多重散乱を起こすようなある程度透明でかつ反射率の高い物質であることを意味します。

 また、ベスタのごく表層の密度を求めることにも成功し、衝突によって形成されたレゴリス(堆積層)に覆われた表面の密度はベスタの平均密度の1/4〜1/2であることも初めてわかりました。

 光彩陸離たる小惑星ベスタの「衝効果」を再度地球から観測するための次の機会は、今から約120年後の2133年になります。

 この研究成果は2014年10月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌(PASJ)に掲載されます。

論文タイトル

The Opposition Effect of the Asteroid 4 Vesta (小惑星ベスタの衝効果)

研究チーム

  •  ・長谷川直 (JAXA宇宙科学研究所)
  •  ・宮坂正大 (東京都庁)
  •  ・時政典孝 (佐用町総務課)
  •  ・十亀昭人 (東海大学工学部)
  •  ・M. A. Ibrahimov (ロシア科学アカデミー天文研究所)
  •  ・吉田二美 (国立天文台国際連携室)
  •  ・尾崎忍夫 (国立天文台TMT推進室)
  •  ・石黒正晃 (ソウル大学物理天文学部)
  •  ・安部正真 (JAXA宇宙科学研究所)
  •  ・黒田大介 (国立天文台岡山天体物理観測所)

用語1「衝効果」
 「衝(しょう)」とは観測者から見て天体が太陽の正反対の位置にあるときのことです。太陽−天体−観測者のなす角度である「位相角」が0度に近づいたとき、すなわち衝のときに、天体の表面が急激に明るく輝く現象を「衝効果」といい、天体が衝の位置にやってくるとき一時的に鋭く輝く現象として観測されます。「衝効果」は凹凸の多い天体表面や粒子の集合に特有の現象で、観測者から見て太陽を背にして満月のような光の当たり方になったときにだけ多数の細かい影が消えることで説明されます。「衝効果」は平滑な面に光が当たる場合では見られません。

用語2「干渉性後方散乱」
 光は波の性質を持ち、光の波の位相が揃った時に強め合い、揃っていないと弱め合います。太陽から入射した光が小惑星表面にあるレゴリス層で散乱され、太陽方向に向かって出射くる光は、波の位相が揃い、強め合う事が理論的に予測されています。このことを「干渉性後方散乱」といいます(図3)。



図1
図1 口径6.4cm望遠鏡で観測した小惑星ベスタ

この写真の視野角は72×72分角。中央の緑丸がベスタ。



図2
図2 「衝効果」を示す観測結果と干渉性後方散乱モデルへの近似

グラフの縦軸は小惑星と太陽の間、小惑星と地球の間をそれぞれ1天文単位に変換した時の明るさ。丸点は観測から得られた値、破線は干渉性後方散乱なしのモデルへの近似曲線、実線は干渉性後方散乱ありのモデルへの近似曲線。干渉性後方散乱ありのモデルがよく一致しているのがわかる。グラフ左側の黄色い領域は干渉性後方散乱が効いている位相角の範囲を示す。




図3
図3 「干渉性後方散乱」の模式図

入射光がある角度で出射した時に、それと全く反対側から通った光とは、結果的に位相差を生じて観測されることになる。もし位相角(入射と出射の角度)が0度の場合はこの位相差がゼロになる。これを太陽方向の遠く離れたところから観察すると、位相の揃った光どうしが強め合って明るい散乱光が観測される。

画像のダウンロードはこちらから

※注1 大気のない地球型小惑星表面に揮発性成分を含む鉱物発見!
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2003/1029.shtml
小惑星ベスタの表面に揮発性成分を含む鉱物である含水鉱物が存在している事を世界で初めて発見。

※注2 小惑星イトカワにおける「衝効果」の例
http://www.isas.jaxa.jp/j/special/2008/hayabusa/11.shtml
小惑星探査機「はやぶさ」がとらえた小惑星イトカワにおける「衝効果」の例。

2014年10月24日

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