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特集

古くて新しい謎、白色光フレア

磯部洋明 東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 日本学術振興会特別研究員

 太陽フレアは、コロナから出るX線や彩層から出るスペクトル線(水素Hα線、カルシウムH線など)で主に観測されます。特に強いフレアでは可視連続光(白色光)、つまり人間の目で見える光でもフレアに伴う増光が観測されることがあり、「白色光フレア」と呼ばれます。1859年にキャリントンが黒点のスケッチ中に初めて発見したフレアも、白色光フレアでした。可視連続光は、彩層の下の「光球」と呼ばれる薄い層から放射されます(図28a)。フレアが起きると、コロナからやって来る高エネルギー粒子により彩層が加熱されますが、光球は密度が高いため、高エネルギー粒子が到達することは難しいと考えられています。何が白色光フレアを光らせているかは、その長い観測の歴史にもかかわらず、太陽フレアの物理で最も分かっていないことの一つです。

図28 白色光フレアの放射メカニズム

図29 可視光磁場望遠鏡(SOT)がとらえたXクラスフレア
上はカルシウムH線、下は可視連続光(Gバンド)。

 「ひので」可視光磁場望遠鏡(SOT)は、2006年12月13日に起きたXクラスのフレアをカルシウムH線と可視連続光(Gバンド)によって、これまでにない高解像度で観測しました。図29はSOTが観測したカルシウムH線(上)とGバンド(下)の画像です。逆の磁場極性をもつ2つの黒点の間でフレアが起きており、カルシウムH線では明るい帯状の構造(フレアリボン)が2本と、それらをつなぐループ状の構造が見えています。
 注目している白色光フレアは、図29下の赤い四角で囲った部分です。拡大図をよく見ると、フレアに伴う明るい構造には、特に明るい部分(コア)とその周囲のぼんやりと明るい部分(ハロー)があることが分かります。またフレア前後の画像を詳細に比較すると、フレア前に光球で見えている構造(半暗部の筋構造や粒状斑)が、フレア発生中でも見えていることが分かりました。これらのことは、以下のように解釈されます(図28b)。
 まず彩層上部で加熱が起こり、そこで圧縮により密度の高い層ができて、可視光や紫外線(UV)などの強い放射を起こします(コアに相当)。放射のエネルギーが彩層のより下の部分を加熱し、そこからも可視連続光が放射されます(ハローに相当)。したがって、白色光フレアは光球が光っているのではなく、彩層中で一時的に光球のような高密度の状態が形成されるためであると考えられます。
 SOTによるこれらの微細構造の観測は、白色光フレアの増光メカニズムに新たな知見をもたらしました。今後は観測例をさらに増やすとともに、下層大気の輻射輸送を考慮した理論モデルとの比較が重要な研究テーマとなります。

(いそべ・ひろあき)