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特集

巨大フレア後に観測された温度に依存した高速流〜コロナ質量放出(CME)の足元か?〜

今田晋亮 国立天文台 ひので科学プロジェクト 研究員

 2006年12月13日に起こった巨大フレアを、「ひので」搭載の極端紫外線撮像分光装置(EIS)でとらえることに成功しました。ここでは、そのフレアに付随して起こったと考えられる、温度に依存した高速流について説明します。
 EISは、極端紫外線領域において太陽大気(コロナ)の分光観測を行う観測装置です。分光することにより、画像を撮るだけでなくプラズマの視線方向の速度、温度、密度などを診断できることが、この望遠鏡の最大の利点です。図25a〜cは、EISによって得られた巨大フレアのHe II、FeXIVおよびFe XVの輝線で得られた2次元空間マップです。He IIの輝線は低温(約10万度)の、Fe XIVおよびFeXVの画像は高温(約200万度)のプラズマの様子を反映しています。撮像観測では視線方向(太陽表面からの高さ方向)にさまざまな温度のプラズマが重ね合わせられるため、温度の違いは太陽表面からの高さの違いによると考えられています。

図25 2007年12月13日に起きた巨大フレアの観測
a〜cは極端紫外線撮像分光装置(EIS)によって得られた2次元マップ、dはGOES衛星によるX線強度の時間プロファイル、e〜gはEISの輝線スペクトル。

 それでは、a〜cの白点線上について詳しく見ることにしましょう。dはGOES衛星によるX線強度の時間プロファイルで、フレアの強度および時間変化を表すものです。黒点線で、a〜c白点線上を観測していた時間を示してあります。この時間の分光スペクトルを見てみましょう(e〜g)。縦軸はスリット方向、横軸は波長、色で光子の数を表しています。ある波長に光子の数が集中していますが、この波長がそれぞれの輝線の典型的な(静止プラズマから発生する)波長だと考えられます。eでは典型的な波長のものしか観測されていないのに対し、fとgでは左(短波長側)にシフトした輝線が観測されています。これは、プラズマが視線方向手前側に運動しているためドップラーシフトしたものと考えられます。
 図26下段は、図25e〜gの白点線部を見たものです。参考のため、上段には典型的な輝線を載せてあります。確かにFe XVとFe XIVでは短波長側にシフトしていますが、He IIではシフトしていないことが分かります。この違いは見ているプラズマの温度によるものと考えられ、高温プラズマは高速で運動していて、低温プラズマはほぼ運動していないと考えることができます。

図26 EISの輝線スペクトル
上段は静止、下段はドップラーシフトしたもの。

図27 EISによって観測された温度と速度の関係

 EISでは、この他さまざまな温度に対応する輝線を観測しています。それらを用いて温度と速度の関係を明らかにしたものが図27です。先ほども述べましたが、この温度の違いは太陽表面からの高度によるものです。つまり、この結果は、太陽から外側に加熱されながら加速している現場をとらえたものと考えられます。詳細は省きますが、このフレアではコロナ質量放出(CME)も観測されていて、この領域はCMEの足元に当たるのではないかと考えられています。この結果はCMEの理解に貢献するものと期待され、さらに研究が進められています。

(いまだ・しんすけ)