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はやぶさ特集:小惑星探査機「はやぶさ」の研究計画について
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第20号科学衛星MUSES-Cは,先日の打上げ後「はやぶさ」と改名され,現在2004年5月の地球スウィングバイにむけてイオンエンジンを稼働中です。「はやぶさ」プロジェクトは工学実験の衛星計画であり,種々の多様な新規技術の開発と実証を目的としていてそれらは総合工学の研究計画として位置づけられています。一方,理学面においては,太陽系探査の視点を始原天体へと展開し,サンプルリターンという新たな探査方式の実証を行うことが「はやぶさ」プロジェクト目的の根幹です。しかし,ここでは工学面を紹介することに限定したいと思います。

小惑星サンプルリターン計画の宇宙科学研究本部における検討は,実はかなり古くに始まっていて,初の惑星間探査機「さきがけ」が成功裏に打ち上げられ,「すいせい」の打上げを間近にひかえた1986年6月に,現所長の鶴田先生の主催で行われています。その翌年には,Anterosを対象として,90年代に想定するミッション例として化学推進機関によるサンプルリターンの構想をまとめたのですが(図1),時期尚早でプロジェクトとして提案されることはありませんでした。ただ,このときの原案の図を見て驚くのは,偶然とはいえ1998SF36を想定した軌道ととてもよく似ていることです。また,この段階で早くも惑星間軌道からの直接リエントリが必須技術であることが報告・提案されていたことは特筆すべきことでしょう。
(図1)1987 年のAnteros サンプルリターン計画案


「はやぶさ」で開発・実証を目的としている4つの新技術要素は,イオンエンジンを主推進機関とした惑星間航行,光学観測による自律的な航法と誘導方法,惑星表面の標本採取技術と惑星間軌道からの直接大気再突入と回収です。あまり強調されてはいませんが,このほかにも2液小推力化学推進機関,総電力固定のデューティ制御型熱制御,イオンエンジンを閉ループに組み込むホイールアンローディング,PN-code超遠距離測距(PN-codeは送信電波に乗せる疑似雑音符号で,この符号の往復伝搬時間を測定することにより,距離を求めます。),リチウムイオン2次電池の採用など,各種の新たな衛星・探査機技術が導入されています。「はやぶさ」はまさにハイテク・ロボット宇宙船でもあります。(図2)これらの技術要素の研究については専門性も高く,ご担当の方々から紹介いただくのが適当なので,今回は列挙するにとどめさせていただき,私の紹介できる範囲で,飛行計画と今後の応用について研究計画と絡めて紹介させていただきたいと思います。


(図2)探査機の
搭載機器図


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