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特集

「ひので」がとらえた太陽フレアに伴う衝撃波

成影典之 JAXA宇宙科学研究本部 宇宙航空プロジェクト研究員

太陽フレアは、太陽系で最大の爆発現象です(解放されるエネルギーは1029〜1032erg)。そのフレアの中でも最大級に分類されるXクラスのフレアが、2006年12月13日に発生しました。このフレアは、「ひので」が打ち上げられて最初に起きた大規模フレア群のうちの一つで、フレアはもちろん、フレアに関係するダイナミックなさまざまな現象を観測することができました。
 このフレアにおいて「ひので」の性能が遺憾なく発揮されたのが、「衝撃波」の観測です。爆発が起これば衝撃波が発生することは、想像できると思います。太陽でもフレアが発生すると、しばしば衝撃波が発生し、コロナ中を伝搬します。しかし、衝撃波の発生数に比べ、その伝搬の様子を観測した例は非常に少ないのです。その要因は2つあります。まず、衝撃波はおよそ毎秒1000kmという非常に速いスピードで伝搬するため、観測装置には広い視野と高い時間分解能が要求されるからです。2つ目は、衝撃波がフレアに比べて「かすかな」現象だからです。X線や紫外線の波長域で観測した場合、フレアの明るさはまわりのコロナの数千倍以上になるのに対し、フレアで生じた衝撃波の明るさはコロナの明るさの数倍程度にしかなりません。このため、観測装置には優れた感度が求められます。
「ひので」搭載のX線望遠鏡(XRT)は、これまでのX線望遠鏡と比べて感度と時間分解能、空間分解能が優れており、コロナ中を伝搬する衝撃波の観測にも適しています。図30は、2006年12月13日にXRTが観測したフレアと衝撃波です。衝撃波が円弧状に広がりながら伝搬していく様子がとらえられています。この衝撃波の速度は、毎秒630kmでした。
 また、「ひので」に搭載された極端紫外線撮像分光装置(EIS)も、衝撃波をとらえていました。EISは分光装置なので、コロナからの光を分解し、波長ごとに光の強さを測定できるのが大きな特徴です。観測された波長ごとのデータには、プラズマの温度や密度、速度の情報が含まれており、解析することでコロナ中にあるプラズマの物理量を引き出すことができます。

図30 X線望遠鏡(XRT)がとらえたXクラスフレアと衝撃波
上段はXRTの1分ごとの画像。図の上の数字は観測時刻。下段は衝撃波の先端に+印を付け加えた画像。

 図31は、EISがとらえた衝撃波のデータです。aは195Åの波長のデータで、約150万度のプラズマの様子が撮影されています。bは274Åで約200万度、cは193Åで約500万度のプラズマを見ています。各図に示されている+印は衝撃波の先端を示してあり、+印の下側が通常のコロナ、上側が衝撃波です(d参照)。aとbでは、衝撃波部分の明るさがコロナ部分より暗くなっていて、cでは逆に明るくなっていることが分かります。これは、定常的に存在する200万度以下のコロナが、衝撃波中では500万度以上に加熱されていることを示しています。

図31 極端紫外線撮像分光装置(EIS)がとらえた衝撃波
a〜cは、ある波長(図の上に記載)での光の強さを示す。これらは、ある温度(図の上に記載)のプラズマの様子を表している。図中の+印は、衝撃波の先端を示している。dは、a〜cにおける衝撃波の位置を示す。

 XRTは、衝撃波の伝搬の様子をとらえ、衝撃波の速度を測ることができました。EISの分光データからは、温度と密度を知ることができました。我々は、これらの観測データと電磁流体理論を合わせることで、この衝撃波のマッハ数(MHD fast-mode Mach number)が1.4であると算出しました。また、直接観測することの難しいコロナの磁場を、約7ガウスであると見積もることができました。
「ひので」に搭載されている装置は、それぞれが世界最高レベルのデータを取得し、数々の新発見をしています。そして、それらのデータを合わせて解析することにより、さらに新しい発見がなされています。

(なるかげ・のりゆき)