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宇宙科学の最前線

  ガンマ線偏光観測の実現とガンマ線バースト放射メカニズムの研究 金沢大学理工研究域 准教授 米徳大輔

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見えてきたジェットの内部構造

 GAPの観測から、相対論的ジェットの内部環境を推測してみましょう。まず、ガンマ線放射が高い偏光度を示していることから、放射メカニズムはシンクロトロン放射であると考えることが自然です。問題は、バーストの最中に偏光角が変化したという事実をどのように捉えるかです。

 相対論的ジェットを形成するモデルの一つに、らせん状の磁場を考えるものがあります(図3)。プラズマは磁場と相互作用して自由に散逸できなくなるので、細く絞るには好都合です。それを正面から見ると同心円状の磁場になっているはずです。もし、放射領域が小さなパッチ状に点在していて、場所ごとに磁場の向きが異なるのなら、GRBのパルスごとに偏光の向きが異なることも説明できます。小さな放射領域では、磁場は局所的にそろっているため高い偏光度を示し、かつ偏光角が変化するという2つの観測事実を同時に説明できるわけです。GAPの観測から、GRBのジェットには内部構造があり、具体的な磁場の形状が見えてきました。宇宙ジェットの形成という高エネルギー天文学の大問題に、重要な示唆を与えることになります。


図3
図3 ガンマ線バースト(GRB)の想像図
らせん状の磁場により、相対論的ジェットが細く絞られており、その内部で複数の放射領域が光っていると考えられる。それぞれが異なる偏光方向を示すことで、偏光角の時間変化を説明できる。


 電磁波が散乱した場合でも偏光を示すと紹介しましたが、実は、GRBの理論モデルの中にもそのような状況を考えているものがあります。今回の観測だけでは、統計精度が不十分で完全にそのモデルを棄却することはできませんが、高い偏光度を示していることからシンクロトロン放射モデルに軍配が上がると考えています。

 GAPと独立したGRB偏光観測計画として、東京工業大学と宇宙研が主体となって開発しているTSUBAME衛星の打上げが間近に迫っています。国内のPolariS計画やNASAのGEMS計画など、本格的なX線・ガンマ線の偏光観測の黎明期を迎えています。明るい天体であればASTRO-Hも高い精度で偏光観測を実施できるでしょう。偏光観測が、今後の高エネルギー天文学における一つの分野として発展していくことが期待できます。


おわりに

 本研究の実験・観測の成果により、第6回宇宙科学奨励賞をいただきました。また、村上敏夫先生と共同で北國文化賞を受賞し、本研究で理論検討を一緒に行った當真賢二氏は、日本物理学会の若手奨励賞、日本天文学会の研究奨励賞をダブル受賞しています。我々の小さな実験プロジェクトを大きく評価していただけたと感じております。IKAROSという完全に工学分野の探査機に、理学観測装置を搭載する機会を与えていただけたことは大変な幸運でしたし、工学系の先生方と一緒に研究活動を行えたことも良い経験になりました。最後になりましたが、村上敏夫先生(金沢大学)、郡司修一先生(山形大)、三原建弘先生(理研)、クリアパルス社をはじめとしたGAPチーム、本来のIKAROSプロジェクトだけでも大変なときにGAPにまで多大なるご配慮を頂いたIKAROSメンバーおよびメーカーの皆さま方に、心よりお礼を申し上げます。

(よねとく・だいすけ)

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