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宇宙科学の最前線

「超新星残骸のX線精密分光観測 XMM-Newtonによる先駆けとASTRO-Hへの展望 ASTRO-E II(すざく)プロジェクト研究員 勝田 哲

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まとめとASTRO-Hへの期待

 XMM-NewtonのRGSによるX線精密分光観測がSNRの研究に有効であり、その最前線を切り拓いている現状を紹介しました。誌面の都合上、パピスAの結果しか記載できませんでしたが、我々は世界に先駆けてほかのいくつかのSNRでも興味深い結果を得ています。

 一方、2015年度に打上げが迫るASTRO-HのSXSの威力は、特にSNRなどの広がった天体には絶大です。RGSは局所的に明るい構造や見掛けの小さいSNRにしか有効ではありませんが、SXSはそのような制限がありません。そのため、観測対象が圧倒的に増加し、これまで観測にかからなかった微弱輝線を初検出したり、X線スペクトルの空間変化を詳しく調べたりできます。また、各輝線の幅を精度よく測ることでイオン温度や乱流速度が探れます。さらに、SXSは高エネルギーX線への感度も高いため、鉄族元素の精密な輝線診断を初めて可能にします。このほか、予想もしなかった大発見があるかもしれません。ASTRO-Hプロジェクトチームは現在、さまざまなアイデアに基づく観測計画を練り(図3はその一例)、打上げに備えています。ASTRO-Hがどんな新展開を見せてくれるのか、とても楽しみです。

図3 ASTRO-HのSXS観測シミュレーション
図3 ASTRO-HのSXS観測シミュレーション [画像クリックで拡大]
ChandraによるSN 1006超新星残骸のX線画像にASTRO-HのSXSの視野(3分角×3分角)を白四角で示している。グラフは、この領域で期待されるASTRO-HのSXSスペクトル(シリコンKα輝線に対するシミュレーション)である。膨張するシェルの手前側と奥側のドップラー偏移により、各輝線は青と赤の2成分に分かれることが予想される。点線のモデルは、プラズマの不規則な運動(熱運動や乱流運動)が大きい場合に期待されるSXSスペクトル。

(かつだ・さとる)

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