宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > X線で白色矮星の重さを測る

宇宙科学の最前線

X線で白色矮星の重さを測る ASTRO-H プロジェクト研究員 林 多佳由

│1│

白色矮星

 恒星は、誕生してからその一生のうち約9割の時間、水素の核融合によって輝きます。水素を使い果たすと、水素の核融合でつくられたヘリウムなどの核融合が始まり、星の中心温度は1億度以上に達します。この温度上昇に伴って恒星は膨れ、表面温度が下がり、赤色巨星になります。太陽の8倍以下の重さの恒星では、外層を吹き飛ばして中心核が残ります。それが白色矮星です。

 白色矮星は、重さは太陽と同程度ですが、大きさは地球ほどしかなく、1cm3当たりの重さが1000kgもある、とても高密度な天体です。また、ここで重要なのは、白色矮星には重さの限界が存在することです。これを「チャンドラセカール限界」と呼び、太陽の重さの1.4倍と算出されています。

 少し専門的ですが、それは以下のように説明されます。白色矮星の構造を支えているのは、電子の「縮退圧」です。電子などのフェルミ粒子は二つとして同じ状態を取ることができません。つまり、「ある電子」より低いエネルギーの状態をほかの電子が占有していると、「ある電子」はほかの電子と同じ状態になれないので、そのエネルギー以下にはなり得ません。このときのエネルギーをフェルミエネルギーと呼び、これに対応する圧力が縮退圧です。ここで、フェルミエネルギーに対応する電子の速さが光速に達しても重力を支え切れない重さ、これがチャンドラセカール限界です。

 白色矮星と恒星が重力的に結び付き、恒星から白色矮星へガスが流れ込む系(近接連星)では、ガスが降り積もり、白色矮星は太ります。そして、星の重さがチャンドラセカール限界に達すると、星の重力を支えられず、Ia型超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。

 Ia型超新星爆発では、急激に核融合が進み、鉄などの重元素を生成して宇宙空間へばらまき、宇宙の化学進化を進めます。また、爆発の条件から、Ia型超新星爆発を起こす白色矮星の重さは太陽の1.4倍で一定であると仮定すると、明るさも一定と考えられ、見掛けの明るさから遠方銀河の距離を測ることができます。得られた距離と光のドップラー偏移から測定できる宇宙の膨張速度を比較することで、宇宙は加速膨張していると示されています。この結果は、宇宙の主成分がダークエネルギーである証拠とされています。

 このように、白色矮星は宇宙の化学進化や宇宙論研究において重要な役割を果たしています。特に、将来Ia型超新星爆発を起こす可能性がある近接連星内の白色矮星の重さを知ることは重要です。それはIa型超新星爆発の頻度に影響するため、宇宙の化学進化の鍵を握ります。また、太陽の重さの1.4倍というチャンドラセカール限界の値は、理論計算の結果であり、真の値は観測的に調査する必要があります。この近接連星内の白色矮星の重さを測る強力な方法が、今回紹介するX線による測定法です。


│1│