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宇宙科学の最前線

宇宙での結晶成長実験 学際科学研究系 准教授 稲富 裕光s

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「きぼう」での結晶成長実験

 ISS計画はアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本などの15ヶ国が参加しており、各国が最新技術を結集しています。日本初の有人実験施設である「きぼう」は、ISSの中で最大の実験モジュールです。

 きぼう」での結晶成長実験は、現在まで次の2段階により進められています。「きぼう」の利用が開始された2008年から2010年中ごろまでの“第1期利用”では、成長界面の形態や温度濃度をリアルタイム観察し、結晶成長面が荒れる限界の特定やその後の組織形成を解き明かすことを目的としました。2010年中ごろから2012年ごろまでの“第2期利用”では、第1期での成果を踏まえ、界面での微視的な原子・分子の振る舞いに基づく結晶成長現象の解明および高品質結晶育成技術に関する知見を得ることを目指しています。

 「きぼう」に搭載済みの日本の結晶成長実験装置は、溶液結晶化観察装置、タンパク質結晶生成装置、温度勾配炉の計3台です(図2)。溶液結晶化観察装置は、結晶の形、環境相中の温度、濃度を同時に計測することを可能にする顕微鏡システムです。タンパク質結晶生成装置は、名称の通りタンパク質の結晶化を複数同時に実施するためのものです。温度勾配炉は、大型の真空容器の中でヒーターからの輻射により試料を自動で高温加熱できます。

図2
図2 結晶成長実験装置を手にする若田光一宇宙飛行士
ファセット的セル状結晶成長機構の研究(Facet実験)で用いられた。


 実施済みの「きぼう」実験の例としては、溶液結晶化観察装置を使った氷、ファセット結晶、タンパク質結晶に関する実験(それぞれの略称はIce Crystal、Facet、Nano Step)、そして温度勾配炉を用いた半導体結晶に関する実験(Hicari、Alloy Semiconductor)があります。それらの実験の詳細な紹介はJAXAのwebサイト、『ISASニュース』をご覧ください(参考)。

宇宙環境を利用した今後の結晶成長研究

 宇宙環境を利用するための方法として、ISSに加え、観測ロケット、大気球、航空機、落下塔などによる短時間微小重力利用があります。また、将来は国際協力による新たな飛翔機会の利用による研究が展開されることでしょう。

 そこで、ここでは著者が考える今後の研究テーマ例をいくつか述べます。

(1)高品質結晶の育成・新素材の探索

 応用利用を強く意識した研究テーマとして、かつてメートル原器が長さの基準となったように、基準となる理想的な特性を持つ結晶の育成が考えられます。地上で高品質の結晶を育成するためには、そのような理想的な結晶を得るだけでなく、環境相の熱物性(表面張力、比熱、密度、熱伝導率など)を正確に求めることも必要不可欠です。そこで、宇宙での結晶成長、熱物性計測、そして流体科学実験で得られた知見と数値シミュレーションとの連携により、従来のトライアル&エラーで行われてきた地上での結晶成長過程の効率化への貢献が期待されます。

 ほかの関連テーマとしては、浮遊法による準安定相の探索があります。電磁力、静電気、ガスジェットなどの利用による浮遊法では、試料保持のための容器を必要としないため、これまで容器の中で原料を溶融する方法では困難とされた準安定相の創製が期待されています。

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