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宇宙科学の最前線

極端紫外線分光で分かる惑星プラズマ環境と惑星大気流出 太陽系科学研究系 助教 山ア 敦

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科学目標を達成するために

 上述した惑星プラズマ環境や大気流出の研究目標を達成するポイントは、惑星の視直径より細かな角度分解能で光学観測を実施することです。木星と金星の最大視直径はそれぞれ約50秒角と約60秒角で、本ミッションの角度分解能を±5秒角と設定しました。このときの木星と金星の極端紫外線分光観測画角を図2に示します。観測成功には、同じ精度で衛星姿勢を安定させることが必須となります。

図2
図2 木星(上)と金星(下)の観測例
上図の木星像は土星探査機カッシーニ衛星が観測したイオプラズマトーラスと、ハッブル宇宙望遠鏡およびX線天文衛星チャンドラが観測した木星極域オーロラの公開画像の合成。下図の金星像は計算機シミュレーション結果(Terada et al., 2009)。水色の枠はおよそ1ピクセルのサイズに相当する。


 ところで、小型科学衛星では、これまでの科学衛星とは異なる開発方法を採用しています。どのような衛星でも必要となる衛星システム(バス部)と、プロジェクト固有の性能を持たせた観測機器(ミッション部)とを個別に開発して、それぞれが完成したところで合体して一つの衛星とするという開発方法です。バス部とミッション部の間のインターフェース条件を厳格に定義することが必要となりますが、個別開発することにより開発規模を小型化することが可能になるとともに、開発の効率性と各部設計の柔軟性を確保することができます。

 しかし、±5秒角という高精度の姿勢安定性を衛星システムへの要求とし、姿勢制御系を備えるバス部のみで達成する設計とした場合、超高精度な姿勢制御システムの開発が必要となります。そこで、ミッション部から観測視野内の惑星位置そのものの情報をバス部の姿勢制御系に伝送する独自のバス―ミッション間インターフェースを追加することにしました。ミッション部には(惑星分光観測には不要の)視野ガイドカメラが搭載されることになり、バス部の姿勢制御系には惑星追尾機能が追加となりました。バス部とミッション部それぞれには開発部位が増えるのですが、衛星全体の開発には効率性を確保することが可能となりました。理工一体の開発体制を持つ宇宙研ならではの利点が、衛星全体の開発の最適化に生かされた結果です。

さらなる課題に向けて

 SPRINT-Aでは、木星磁気圏でのエネルギーの輸送過程についての未解決問題や、金星・火星周辺で生じている大気散逸量の測定に取り組みます。地球とは異なる環境下の磁気圏・大気圏の特性を理解することは、地球環境がいかにかけがえのないものか、その再認識につながります。さらには、太陽系や系外惑星系の形成・誕生・進化の理解につながると期待しています。そして、生命を育む地球のような惑星環境の成立が必然なのか偶然なのか、人間という生命体として根源的な疑問について考えるきっかけになれば、うれしく思います。

謝辞:本プロジェクトを遂行するに当たり、プロジェクトメンバーにとどまらず、関係者の方々に多大なご協力・ご尽力をいただいています。この場を借りて感謝の意を表します。
参考文献:尾中、分光研究、1970。 吉川ら、遊星人、2012。


(やまざき・あつし)



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