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宇宙科学の最前線

データ公開サービス「AKARI Catalogue Archive Server」の開発・公開 宇宙科学情報解析研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 山内 千里

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AKARI Catalogue Archive Serverとは

 「AKARI Catalogue Archive Server」(以降AKARI-CAS、図)は、赤外線天文衛星「あかり」全天サーベイ赤外線天体カタログを使った幅広い研究に応えるべく新規に開発されたデータ公開サービスで、科学衛星運用・データ利用センター(C-SODA)が運用する「DARTS」(新しいウィンドウが開きます http://darts.jaxa.jp/)の一部として公開されているものです。2010年3月30日の公開から3ヶ月で10万のアクセスを超え、現在でもコンスタントに月1万〜2万のアクセスを集める、「世界に通用する」データ公開サービスです。

 本稿では、「あかり」カタログについて簡単に紹介した後、「データ公開サービス」の基本的な話を交えながら、今回開発したAKARI-CASについて分かりやすくお伝えしたいと思います。


日本の宇宙科学の画期的な成果「あかり」全天サーベイ赤外線天体カタログ

 『ISASニュース』2010年4月号でお伝えしたように、「あかり」の全天サーベイによる約130万天体に及ぶ赤外線点源カタログが、3月30日に世界中の天文学者に向けて公開されました。この「あかり」カタログの公開は、さまざまな研究テーマに取り組む世界中の天文学者にとって一大イベントとなりました。天文学者が挑む「宇宙の進化」という本質的な課題のためには多数の天体の観測データを使った統計解析が不可欠であり、「あかり」カタログのように均質で多数の天体を含む天体カタログは極めて科学的価値が高いためです。しかも、このカタログは望遠鏡を長時間独占しないとつくれない"全天"カタログであるという点が、さらにその価値を高めており、これまで日本でつくられたデータプロダクトの中でも最も画期的といえるものです。

 本稿を読まれる皆さんには、まず、こんなにすごいデータプロダクトが日本から世界へ発信されているんだということを、頭に入れておいていただきたいと思います。


データ公開サービス開発の重要性

 「あかり」に限らず、衛星を打ち上げて観測データを取得し、それを研究に利用できるようにするまでには、莫大な資金だけでなく、関係者の長期にわたる労力を必要とします。そうして得られたデータは、宝石の原石に例えることができます。研究者はそのデータ(原石)をさまざまな切り口で解析し、さまざまな科学的成果(宝石)に磨き上げていくわけです。

 このとき、研究者がどれだけ効率的に必要なデータを取得して解析できるかが、大変重要なテーマになってきます。なぜなら、研究効率を上げることができれば、研究者はより多くの科学的成果を生み出すことができるからです。このように、原石(データ)からたくさんの宝石(成果)を取り出すためには、研究者の立場に立って開発された優れた解析ツールやデータ公開サービスが、十分に整っていることが非常に重要です。

 このようなデータ利用環境は諸外国では重要視され、長く研究・開発がなされてきました。研究機関にはデータ処理のプロ集団が配置され、研究者は彼らとの情報交換により有利に研究を進められる体制となっています。しかし残念ながら、日本はこれまでこの分野にあまり力を入れてこなかったため、今では諸外国にかなり後れを取っています。データ利用環境は目に付きやすいこともあり、今のような状態では、日本の科学データ利用に対する考え方は未成熟という印象を与えかねません。

 すでに述べた通り、「あかり」による赤外線天体カタログは画期的な日本のデータプロダクトであり、それには莫大な国費が投入されています。その成果物に対して、日本は最後まで責任を持って対応できるかが問われています。自国でデータ公開サービスを開発することは、国内の研究者が有利に研究を進めるためにも、諸外国に対するアピールのためにも、大切だと考えます。


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