宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 「れいめい」がとらえたオーロラの新しいカタチ

宇宙科学の最前線

「れいめい」がとらえたオーロラの新しいカタチ 名古屋大学 高等研究院 特任講師 海老原 祐輔

│3│

 散乱型オーロラの形は、電子が散乱を受ける領域で決まります。散乱を受けた粒子の一部は地球に向かって降下し、オーロラを光らせます。電子を散乱させるメカニズムとして最も有力なのが、プラズマ波動です。プラズマ波動の成長率は背景となる冷たいプラズマの密度に強く依存するので、散乱型オーロラの形は宇宙空間の冷たいプラズマの空間分布を反映していると考えることができます。そこで、形に関して二つの問題点に突き当たります。

 最初の問題はその複雑性です。複雑な形をつくる有力な候補として、交換型不安定性が挙げられます。これはプラズマの圧力と磁場の圧力のバランスが崩れることによって生じるもので、過去の理論研究によれば、地球から遠ざかるにつれてプラズマの圧力が急激に低下すると起こりやすいとされています。サブストームと呼ばれる大規模な擾乱に伴って熱いプラズマが地球近傍の宇宙空間に局所的に注入されたとしたら、交換型不安定性が成長する条件が整うかもしれません(図3)。


図3
図3 シミュレーションによる地球周囲の冷たいプラズマの分布
熱いプラズマを注入すると交換型不安定性が成長し、冷たいプラズマが乱される。数千kmスケールの複雑な形が白線内に示されているが、実際には10kmスケールの微細な形がつくられている可能性がある。


 次の問題はその微細性です。荷電粒子は磁力線のまわりを常に巻き付きながら旋回しているので、旋回半径以下の形をつくることはできません。地球近傍の宇宙空間では高エネルギーのイオンがプラズマの圧力を支え、プラズマ分布の形を決めるとされてきました。典型的なエネルギーを持つイオンの旋回半径は磁気赤道面で約100kmです。それに対して、0.6kmというオーロラの厚みを磁気赤道面に投影すると、わずか9kmしかありません。つまり、イオンがプラズマの圧力を支えているという従来の考え方では、プラズマ分布の微細性を説明できないのです。もし、イオンより旋回半径の小さい電子もプラズマの圧力を支えていたとしたら、観測されたような微細な構造をつくることができるかもしれません。このとき静止軌道衛星LANL-97Aは、熱いイオンはほとんど変わらずに熱い電子のみが増加するという偏ったプラズマ注入現象を観測しました。これは、上の考えを支持する弱い傍証になると考えています。

むすび

 地球近傍の宇宙空間では比較的滑らかにプラズマが分布していると考えられてきましたが、「れいめい」によってその考えが覆される可能性が出てきました。そして、プラズマの分布はどこまで細かいのか、という問題点が提起されました。小型科学衛星2号機候補として計画が進められているSPRINT-B/ERG衛星は、これらの不安定性が起こると考えられるその現場で、粒子、磁場、電場、波動の総合観測を行います。そこは放射線帯として知られる相対論的な速度を持つ電子が生成される現場と考えられており、SPRINT-B/ERG衛星は多様性に富む地球近傍の宇宙空間の真の姿を明らかにしてくれるものと、大いに期待されます。

(えびはら・ゆうすけ)



│3│