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宇宙科学の最前線

惑星間航行・編隊飛行のための宇宙機軌道設計 京都大学 宇宙総合学研究ユニット 特定助教 坂東麻衣

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フォーメーションフライトと周期軌道

 地球周回軌道上にある宇宙機の点検や補修・回収などの軌道上サービス、宇宙望遠鏡による高精度の科学観測などを目的とし、複数の宇宙機が決められた条件を保ったまま周回軌道を航行する編隊飛行(フォーメーションフライト)が近年注目を集めています。フォーメーションフライトでは、衛星の絶対的な位置より、フォーメーションを維持するための相対的な位置関係が重要となります。このため、地球周回円軌道のリーダー衛星に対するフォロワー衛星の相対的な運動について考えることにします(図3左図)。円軌道からのずれの少ない範囲での相対運動を扱う方程式はヒル方程式と呼ばれるもので、ある基準点の近くで(この場合は円軌道が基準)有効な方程式を得るために、線形化と呼ばれる簡単化を行っています。ヒル方程式は「周期解」を持つので、フォーメーションフライトの軌道を求めるのによく使われます。周期解とは、ある時間に条件に合った位置・速度を持っていれば、永久にその軌道上を周回することを意味します。つまり、周期解を使えば、燃料を使わないでもリーダー衛星の近くを周回し続ける軌道に乗せることができるのです。しかし、これはあくまでも理想的な話で、実際には線形化したときの誤差が蓄積することによって、長い時間をかけてだんだんと周期軌道から外れていってしまいます。それならば、線形化する前の「非線形」方程式の周期解を求めてしまえばいいではないか、ということになります。一般的には非線形方程式の周期解を求めるのは容易なことではありませんが、フォーメーションフライトに関しては、それが可能なのです。

図3
図3 左:フォーメーションフライト、右:非線形周期軌道の例


非線形性を考慮に入れた周期軌道

 その理由は、相対運動の周期軌道は、慣性系でも周期軌道になっていることにあります。慣性系での宇宙機の運動はよく知られる「ケプラー運動」というもので、その軌道は円、楕円、放物線のどれかを描くことが決まっています。この中で、円、楕円となるものが周期軌道です。相対運動の周期軌道は、すべて慣性系での円軌道か楕円軌道になっているはずで、これを利用すると非線形方程式の周期解を求めることができます。図3右図にいくつかの周期軌道の例を示します。ここではリーダー衛星に対するフォロワー衛星の相対運動が描かれていて、慣性系での楕円軌道がゆがんだ軌道になっています。「非線形」方程式に対する周期解をすべて求めることができるので、この方法はさまざまな形状や大きさの周期軌道を使ったフォーメーションフライトに応用することができます。実際にはその方程式にもまだ誤差が存在しているため、軌道を保持するためには「制御」が必要になります。制御のために燃料をたくさん消費していたのではせっかく周期軌道を使う意味がなくなってしまうので、制御の方法にも工夫が必要になり、そのための方法についても研究を行っています。

おわりに

 宇宙機が燃料消費をできる限り抑えて、より複雑なミッションを行う軌道を設計するためには、宇宙機の運動が本来持っている性質をうまく取り入れた上手な軌道の設計法を考えるのが重要です。それが少しでも伝われば幸いです。

(ばんどう・まい)



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