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宇宙科学の最前線

人工衛星で探る太陽コロナ加熱の謎 国立天文台 ひので科学プロジェクト 助教 勝川行雄

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X線強度の微小変動とナノフレア

 太陽コロナから来るX線は決して一定ではなく、絶えず変動している。フレアやマイクロフレアといった突発的な爆発が発生すると、1桁以上のX線の増光が観測される。しかし、爆発が発生していない時間・場所でも、詳しく見ると変動していることに気付く。このような微細な揺らぎについて定量的に調べた研究は、以前には存在しなかった。「ようこう」軟X線望遠鏡(SXT)は極めてよく較正された観測装置であるため、装置などに起因するノイズの大きさを精度よく調べることを可能にした。それによって、観測された揺らぎの大きさから太陽起源のX線強度の変動を知ることができる。その結果、特にコロナ活動が活発な活動領域のコロナでは、一見定常に見える場所でも、ノイズよりも有意に大きな変動が存在することを示すことができた。
 この揺らぎが無数のナノフレアの重ね合わせによるものと仮定すると、コロナの明るさと揺らぎの大きさを使って、個々のナノフレアのエネルギーを見積もることができる。ナノフレア1個当たりのエネルギーが大きいほど、揺らぎも大きくなると考えられるためである。「ようこう」SXTで得られた揺らぎから見積もられたエネルギーは、10の20乗から10の23乗エルグとなった。X線で観測されるフレアやマイクロフレアといった大きな爆発現象のエネルギーは10の27乗から10の33乗エルグであり、それと比較すると何桁も小さい爆発現象(ナノよりも小さなピコフレア)が無数に発生し、コロナを加熱している可能性があることを示した。


※ エルグ:1エルグとは、1dyn(10-5N)の力がその力の方向に物体を1cm動かすときの仕事量。1erg=10-7J

図2
図2
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(a) 「ようこう」軟X線望遠鏡(SXT)で観測したX線強度の揺らぎの例
(b) X線強度の揺らぎの大きさ
明るいところで、ノイズよりも大きな変動が存在していることを示している。
(c) フレアの発生頻度分布
コロナ加熱のためには、小さなエネルギーのフレアが高頻度で発生している必要がある。


「ひので」がもたらした高解像度観測の威力

  「ひので」に搭載された可視光磁場望遠鏡(SOT)は、世界最高の解像度を持つ太陽観測用宇宙望遠鏡である。SOTによって、これまでは分解できなかったプラズマ現象が見えてきた。特に光球とコロナの中間に位置する「彩層」において、これまで分解できなかった微細な現象が多数とらえられるようになったのである。その一つが、黒点内で発生する微細で短命なジェット現象、半暗部マイクロジェットである。長さは1000〜3000km、幅は約400km、寿命は1分以下と空間的・時間的に微細であり、「ひので」SOTの解像度でないと分解できなかった現象である。

図2
図3
(a) 「ひので」SOTで観測した黒点周辺の彩層の様子
黒点周辺ではジェット(プラズマ噴出現象)が多数観測される。矢印で示したのが、黒点で発生する半暗部マイクロジェット。
(b) 半暗部マイクロジェットの模式図
半暗部には水平な磁場と立った磁場が入り組んで存在し、そこで磁気エネルギーが解放されていると考えられる。


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