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宇宙科学の最前線

X線分光観測で探る激変星の物理

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 太陽の8倍以下の質量の恒星は,中心部で核燃料(水素やヘリウム)を使い果たすと自己重力のために収縮し,太陽ほどの質量を持ちながら大きさが地球程度しかない「白色矮星」になります。白色矮星は普通の星と違い,電子の縮退圧で自己重力を支えています。白色矮星と普通の星が極めて接近した軌道を回っていて,普通の星(以下では伴星と呼ぶ)から重力圏を越えて白色矮星へ物質が流れ込んでいるような連星系を「激変星」と呼んでいます。

 激変星はその名の通り,明るさが激しく変動することを特徴とする変光星です。激変星にはさまざまな種類がありますが,その中で最初に認識されたのは「新星(Nova)」と呼ばれるグループです。新星は,1日程度の間に1万倍以上も増光し,その後,数ヶ月かけて緩やかに減光していきます。その正体は,伴星から白色矮星へ降着した物質が表面の強い重力で圧縮され,主成分である水素が暴走的な核融合反応を起こすものです。

 現在,激変星の中で最も多数派となっているのは新星ではなく,「矮新星(Dwarf Nova)」と呼ばれるグループです。矮新星も新星と同様,1日程度で増光しますが,その増光幅は100倍以下と,新星の増光幅の1/100以下であることから,その名(「矮」は小人という意味)が付いています。矮新星と新星のもう一つの大きな違いは,爆発頻度にあります。矮新星はどれも数週間から数ヶ月に1回の割合で不定期に爆発を繰り返しますが,新星の場合,爆発の間隔は最も短いものでも12年,多くは歴史上1回しか爆発の記録がなく,典型的な新星の繰り返し周期は1万年ともいわれています。

 図1は激変星の模式図です。伴星の重力圏からあふれ出した物質は角運動量を持っているため,局所的にはケプラー回転をする薄い円盤を形づくりながら白色矮星表面に降着します。この円盤は「降着円盤」と呼ばれています。円盤の温度は白色矮星に近づくほど高くなり,最も内側では10万度に達します。激変星は一般的にはどれも非常に青い色をしていますが,それは激変星からの光の大半が高温の降着円盤を起源としているためです。降着円盤は中性子星やブラックホールのまわりにも存在し,X線強度の激しい変動を引き起こすなど,X線天文学とは切っても切れない関係にありますが,その基本的な性質は激変星の降着円盤を調べることによって解明されてきました。



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図1 激変星の模式図
(http://www.star.le.ac.uk/~julo/nmcv.gif)


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