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宇宙科学の最前線

 謎のX線放射の起源は太陽風だった!「すざく」がとらえた地球近傍における太陽風からの輝線放射

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「すざく」による観測とその結果

 「すざく」は2005年7月10日に打ち上げられた我が国5番目のX線天文衛星です。「すざく」にはX線CCDカメラXIS(X-ray Imaging Spectrometer)と硬X線検出器HXD(Hard X-ray Detector)の2種類の検出器が搭載されており、軟X線から硬X線に至る広いエネルギー帯域を高い感度で観測できるのが特徴です。XISは、チャンドラ衛星やニュートン衛星のX線CCDカメラと比較して、特に軟X線に対するスペクトル応答が優れています。有効面積の大きなX線望遠鏡と併せて、軟X線背景放射の研究に大きな威力を発揮します。
 2005年9月2日から4日にかけて、我々「すざく」チームは、X線背景放射の観測のために「すざく」を黄道北極領域に向けていました。図2の上段に示したのは、観測期間中の軟X線の光度曲線です。これを見ると、観測前半の約10時間にわたってX線が増光していることが分かります。「すざく」が観測していた領域には明るいX線天体はなく、また対応する時間帯に増光したX線天体も存在しませんでした。増光はXISの視野全体にわたって起こっていました。図2の下段に示したのは、ACE衛星によって得られた太陽風(陽子)のフラックスの時間変化の様子で、これより「すざく」でX線の増光が観測された時期に陽子フラックスが増加していることが分かります。「すざく」による黄道北極領域の観測中に偶然、「謎のX線増光」が起きたのです。


図2
図2  「すざく」による黄道北極領域観測時の軟X線の光度曲線(上)と、ACE衛星による太陽風の陽子のフラックス(下)。赤色で示したように、観測初期の約10時間にわたってX線と太陽風の増加が見られる。


 「すざく」の特徴は、何といってもスペクトル分解能が優れていることです。我々は、増光に伴ってX線スペクトルがどのように変化したのかを詳しく調べました。図3に示したのは、X線増光が起きていないときのX線スペクトルです。横軸はエネルギー(波長)、縦軸はX線の強度で、十字で示したのが観測によって得られたスペクトルデータです。点線で示したのは、活動銀河核や系外銀河の寄与を表す成分と、銀河系内外の高温ガスからの熱放射成分(温度200万度相当)であり、これらの2成分で「すざく」のスペクトルがよく表されていることが分かります(図3中の緑線)。


図3
図3  増光していないときのX線スペクトル(黒の十字)とそのモデル(緑線)


 図4は、増光時のスペクトルデータを、増光していないときのスペクトルモデルと、増光によって現れた輝線成分(単色のX線が入射した場合でもXISのエネルギー分解能の分だけ幅を持ってしまうために、各輝線のモデル関数はエネルギー分解能の幅を持った形状になります)で表した結果です。解析の結果、増光時のX線スペクトルは、増光していないときのX線スペクトルに9本(図4ではこのうち8本が青線で示されています)の輝線を追加することで非常によく説明できることが分かりました。つまり、X線増光によって少なくとも9本の輝線が現れたのです。


図4
図4  増光したときのX線スペクトル(黒の十字が実データ、黒線がモデル)と増光していないときのX線スペクトルモデル(緑線)、増光に伴って現れた輝線(青線)


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