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宇宙科学の最前線

夜空は明るい!? ―宇宙最初の星の光を探る―

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表紙


夜空はなぜ暗い?

 都会ではもう経験できないが,月のない晴れた夜,星の明かりを頼りに歩いた経験を皆さんお持ちだろうと思う。しかし,なぜ夜空は暗いのかと,まじめに考えた人がかつていた。宇宙が無限に広がっているなら視線方向のどこにも星の表面が見え,夜空は太陽の表面のように明るいはずではないか,と考えたのである。これは,その人の名前をとって「オルバースの背理」と呼ばれている。もちろん,今では宇宙は無限ではないことが知られているのでこの背理は解決しているが,宇宙論の歴史には忘れられない背理ではある。

 夜空は確かに暗いが,本当に真っ暗ではない。天文学では,空一面に光っている放射は「背景放射」と呼ばれ,観測の一分野となっている。背景放射はいろいろな波長帯に各種存在し,個々の天体に分解できないために背景放射として観測される場合もある。背景放射の最も有名なものはマイクロ波宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background:CMBと略される)である。CMBは,高温のプラズマが宇宙膨張に伴って冷えて中性化した時代,宇宙が始まって約40万年後の世界を直接見ているとされ,ビッグバンの直接的な証拠となっている。



宇宙史はどこまで解明されたか

 ビッグバン以後宇宙がどのように進化し,銀河・星・惑星が形成されたか。いってみれば,「宇宙史」は人類の知的好奇心をかき立てるものであり,天文学の最も大きな課題である。天文観測の面白い点の一つとして,遠方を観測することによって昔の宇宙を知ることができることが挙げられる。光の速さが有限なため,遠方の天体の光はずっと昔に発しているためである。また,周知のように宇宙は現在も膨張し続けている。遠方の天体ほど高速で後退しているため,ドップラー効果で光の波長が延びる(赤方偏移:z=波長の延びた割合)。CMBの光は百数十億年宇宙を旅し,波長が1000倍延びて(z≈1000)我々に観測されていることになる。CMBの観測は発見以来精力的に行われているが,そのスペクトルは絶対温度2.7度の黒体放射に限りなく近く,極めて一様である。とはいえ,10万分の1程度の揺らぎが存在し,その解析から宇宙が平坦でこれからも膨張し続けること,宇宙の物質のほとんどは未知の暗黒物質であること,などがいわれている。

 宇宙史の解明には,遠方の銀河の観測が不可欠である。「すばる」などの大望遠鏡の活躍によりこれまでになく遠方の銀河が観測されるようになったが,宇宙が始まって10億年後(z≈6に対応)に銀河がすでに存在していることが分かってきた。図1に宇宙の進化の様子を示したが,CMBの時代から最も遠い銀河が観測されている時代まで,観測事実がまだないことが分かる。この時代は「宇宙史の暗黒時代」とも呼ばれるが,この間に最初の星・銀河が作られたはずであり,天文学的には極めて重要な時期である。


図1
図1 宇宙進化の様子
遠方ほど昔が観測できること,マイクロ波背景放射(CMB)と観測されている
遠方の銀河との間に未知の領域があることを示している。


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