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宇宙科学の最前線

宇宙科学の最前線 宇宙に生命を探し 生命に宇宙を見る 宇宙科学研究所 山下雅道

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透明なオタマジャクシの内臓運動
オタマジャクシは宇宙酔になるだろうか。オタマジャクシには腹圧をあげて嘔吐する機能は備わっていない。そこで、腹壁の透明なオタマジャクシにより、内臓運動から生理的状態を解析する宇宙実験(代表:島根大学・内藤富夫教授)を提案し、国際的にも高い評価をえた。心臓と消化管や、呼吸運動についてみると、ペースメーカーが埋め込まれており、そこで基本的なリズムが発振して周期的な運動がおこる。

それにくわえて、内臓運動の周期や運動の強度は、個体の生理的な状態やその要求に応じ、個体の統合指令系により調節される。アマミアオガエルなどのオタマジャクシでは腹壁が透明で、呼吸運動に加えて、心臓や消化管を簡単に撮像・観察することができる。内臓運動の変化から、個体の生理的な状態や宇宙環境への反応や適応の過程がわかる。分子生物学や神経生理学の発展は、内臓運動やその制御のしくみについても、研究のさまざまな道具を提供している。


宇宙生物科学の針路

長期の実験が可能な国際宇宙ステーションでは、生物を宇宙で継代飼育したときにどのような問題が発生するのか、初期発生から成長・発達、生殖、老化という生活環のどの段階のどんな現象に重力のかかわりがあるかを研究できる。生物の生活環をとおしての重力影響をしらべ、長期の宇宙環境曝露が生命現象にとってどのようなインパクトをあたえるかを評価する基礎的な研究は、人類の宇宙進出の礎となる。
2002年ノーベル賞は物理ではニュートリノ・X線天文学に与えられた。化学は、生体高分子の質量分析・核磁気共鳴による分析ということで、筆者は、化学賞受賞者のひとりであるJohn B. Fenn博士とエレクトロスプレー質量分析の初出論文を共著したことから、栄誉のお裾分けにあずかった。圏外生命探査における生体関連物質の検出に、受賞した分析法が適用できるかと構想している。生理学医学賞はアポトーシス(両生類の変態でもみられる)に与えられ、2002年のノーベル賞は、よくよく宇宙・生物・オタマジャクシにまつわるものであった。

(やました・まさみち)

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