PLAINセンターニュース第163号
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宇宙情報システム講義第1部
衛星データシステムをこう作ってきた(第4回 SIB)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今回は、衛星情報ベース (Spacecraft Information Base)、略して SIB の話をします。今までに、「のぞみ」以降の衛星データ処理システムではパケットが基本的なデータ単位であり、それぞれの装置ではパケットを単位としてデータ処理を行うのだと書いてきました。実際に、現在の宇宙科学研究本部の衛星データ処理システムではパケット単位でデータの伝送や蓄積を行っています。

 パケットは、その中身が何であろうと(衛星内部機器のオンオフ状態であろうと衛星内部の温度データであろうと)関係なしに伝送や蓄積が行えるように作られているデータ単位です。しかし、個々のパケットには異なるデータ(すなわち、衛星内部機器のオンオフ状態とか衛星内部の温度データとか)が格納されています。宇宙科学研究本部の「のぞみ」以降の衛星データ処理システムでは、個々のパケットの中身がどうなっているかを標準的な方法で記述して受け渡しできるような仕組みも開発しました。これが SIB です。

 SIB の使い方は以下のようになります。まず、衛星に搭載される各機器の設計者が、自分の設計した機器の発生するテレメトリパケットとその機器を操作するためのコマンドパケットの内容を標準的な方法で記述して、それをファイルとして作成します。次に、一つの衛星に搭載される全部の機器についてこのようなファイルをまとめ、一つのデータベースとします。これが SIB です。

図1 SIB の概念

 できあがった SIB は、まず衛星の試験の時に使用されます。試験を行うときには、試験手順に従ってコマンドパケットを生成し、それを衛星に送ります。このときに、SIB の内容を利用してコマンドパケットが生成されます。また、コマンドの実行結果の確認をテレメトリデータを用いて行いますが、テレメトリパケットの内容の解釈を行うときにも SIB が使われます。衛星が打ち上げられ、運用を行うときにも、試験時と全く同様な方法で SIB が使われます。さらに、受信したテレメトリデータの解析を行うときにも SIB が使用されます。

 「のぞみ」以前の SIB が無かった頃は、これをどうやっていたのかと言うと、テレコマリストという文書を SIB の代わりに使っていたのです。そして、それぞれの装置は、この文書に基づいて別々にデータベースを作っていたのです。この方法だと、文書の内容をデータベースにする段階で細かなミスがいろいろと発生し、衛星の試験の始めの段階では、試験装置で表示されるテレメトリデータがおかしいのだが、衛星の状態がおかしいのかデータベースがおかしいのかわからないという事態が頻繁に発生しました。しかし、SIB を導入してからは、衛星の設計者が入力した情報がそのままテレメトリ表示のために使われますので、このような混乱は激減しました。

 ただし、SIB を導入した当初は、まったく混乱がなかったわけではなく、「テレコマリストがあるのに、なぜわざわざ SIB みたいなものを作らねばならないのだ」というようなことをずいぶんと言われました。しかし、テレコマリストのような印刷物が必要な場合は、SIB を印刷すればよいわけであり、今では、ほとんどのプロジェクトがテレコマリストをオンライン管理するための道具としても SIB を使っています。

 SIB において重要なことは、一つの情報は一つの手段で管理し、一つの場所に置くべきだということです。実際に、パケットの構成に関する情報は、SIB だけで管理し、最新の SIB を入手すれば常に最新の情報が取得できるようになっています。

 SIB のようなものを用いて情報管理を行う方法は、情報管理の方法として極めて自然なものなのですが、宇宙科学研究本部の中でこのように管理されている情報は、実はそれほど多くありません。そこで、私は、テレメトリやコマンドデータだけでなく、様々な種類の情報を SIB と同様に管理できるようにするための仕組みも検討しています。例えば、運用システムの装置構成や地上局の運用スケジュール等を管理するシステムや手順の構築をこれから行っていきたいと考えています。これらのテーマは、昨年宇宙科学研究本部内に設置された衛星運用室の事業として取り組んでいく予定です。これらの成果は、近々開設される衛星運用室のホームページ(ただし所内限定)で公開していく予定ですので、期待していて下さい。

次号 に続く)

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