PLAINセンターニュース第164号
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宇宙情報システム講義第1部
衛星データシステムをこう作ってきた(第5回 搭載データ処理)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

  前々回(第3回)説明した SDTP と 前回(第4回)説明した SIB は、ともに地上のデータ処理システムで使っている技術ですが、今回は衛星の上で使っている技術について説明します。ところで、宇宙研では、人工衛星だけでなく人工惑星も打ち上げているのですが、ここでは説明を簡単にするために、人工惑星も衛星に含めて考えることにします。

 この連載の第2回目でお話ししたように、現在の宇宙研の衛星データ処理システムにおける基本的なデータ単位はパケットです。テレメトリにもコマンドにもパケットを完全な形で採用した初めての衛星は「はやぶさ」なんですが、「はやぶさ」の搭載データ処理システムでは、パケット以外にも新しい機能をいろいろと採用しました。現在開発中の衛星の搭載データ処理システムも「はやぶさ」のものが基になっていますので、今回は「はやぶさ」の搭載データ処理システムの機能について説明することにします。

 さて、地上から衛星に直接コンコンタクトできる時間帯は限られていますので、衛星の仕事の大部分は地上との直接のコンタクトなしに行われます。

 コマンドについては、地上と衛星とがコンタクトできる時間帯に、地上から衛星に向かって「何時何分になったらコレを実行せよ」という計画を送ります。そして、その時間になると衛星が自動的にコレを実行するのです。コレの実行は、具体的には、衛星のデータ処理システムがコレを実行すべき搭載機器に対してコレに相当するコマンドパケットを送ることによってなされます。

 「何時何分にコレを実行せよ」という命令を時間順に並べたものをタイムラインといいます。「コレ」の部分は、単一のコマンドパケットだけでなく、複数のコマンドパケットのグループを指定してもよいのです。コマンド処理の方法を模式的に表したのが図1です。


図1 コマンド処理の方法

 テレメトリについては、衛星上の搭載機器が作成したパケットは、データレコーダーと呼ばれる衛星内の記憶装置に格納されます。データレコーダー内に蓄積されたパケットは地上とのコンタクトが取れたときにいっせいに地上に送られます。

 データレコーダーに蓄積されたテレメトリパケットを地上に送るときは、重要なパケットから順番に送られます。パケットを送る順番を決めるのには、カテゴリーという概念が使われます。搭載機器がテレメトリパケットを作成するときに、パケット毎にカテゴリーを指定します。そして、データレコーダーに蓄積されたパケットが地上に送られるときは、その時に重要なカテゴリーから順番に送られます。カテゴリーはパケットの優先度を決めるのに使われるのですが、カテゴリーが優先度そのものを表すのではなく、その時の運用の内容に基づいてカテゴリーが優先度にマッピングされるのです。

 「はやぶさ」では、さらにレポートパケットという特殊なテレメトリパケットも使用されています。これは、衛星から地上に知らせたい特別なことが発生したときに衛星が発生するパケットです。レポートパケットには特別なカテゴリーが割り当てられ、たいていの場合このカテゴリーは最優先で地上に送られます。テレメトリ処理の方法を模式的に表したのが図2です。


図2 テレメトリ処理の方法

 今回紹介した「はやぶさ」の搭載データ処理システムは、工学・理学を問わずデータ処理に関して見識のある本部内の方々の知識と経験を結集させて作り上げたのですが、「はやぶさ」のみならず多くのプロジェクトの関係者に高く評価して頂き、私としても非常によい仕事をさせて頂いたと思っています。私は、現在も新規開発はこのようなタイガーチーム方式で行っています。

(次号に続く)



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