PLAINセンターニュース第163号
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情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか?(第8回)

村田 健史
愛媛大学総合情報メディアセンター
宇宙科学情報解析センター客員

 (155号から続く)
1. 緒言
2. Cyber Media Space −愛媛大学総合情報メディアセンターの最近の取り組み−
2.1 概要
2.2 スーパーコンピュータ
2.3 3D Web
2.4 バーチャルリアリティー (VR) システム
2.5 ボリュームコミュニケーション
2.6 MPEG7 による e-Learning 系マルチメディアコンテンツ
3. 科学衛星地上観測データ解析参照システム(STARS)
3.1 STARS について
3.2 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法について
3.3 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法 (その2〜データフォーマットについての考察)
3.3 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法 (その2…) のつづき
3.4 STARS3:メタデータベースの重要性
3.4 STARS3:メタデータベースの重要性の続き


3.5 STARS 4:分散メタデータベースの重要性

 STARS バージョン3(STARS3)では、メタデータを使ってデータファイルを管理していた。STARS は、ユーザが直接データファイルを直接指定してオープンするのではなく、メタデータベース管理システム(STARS3 では Microsoft ACCESS を使っていた)がメタデータを管理し、STARS がクエリを発行することでユーザが選択した期間とデータのデータファイル名を取得していた。これにより、ユーザはデータファイルという意識を持たずに日時やデータ名から数値データや画像を取得することができる。1 秒以下の短時間現象と数日間以上の長時間現象をともに解析でき、また時間精度・分解能が異なる複数のデータを解析する環境を作るためにはこの手法が有効であるというのが、私の考えであった。本来、宇宙空間の現象は、「データファイル」という単位で時空間的に区切られてはいない。

 STARS3 を構築していたころ、メタデータをどのように収集するかについて、よいアイデアがなかった。一方、STARS4 では、メタデータの収集がもっとも重要で深刻な問題となっていた。アルバイトの学生(当時修士課程の学生であった山本和憲君など)が各データサイトにアクセスしてデータファイル名を収集し、同時にファイル名から観測期間を類推して、それをデータベース化していた。(山本君は独自のメタ情報収集用プログラムを使ってメタ情報を収集していたが、自動化からは程遠く、作業は半手動であった。)当時は対象となるデータ機関が宇宙科学研究所(当時)など少数に限られていたため半手動でのメタデータ収集はまだ現実的であったが、今後の STARS が目指す「STP 分野のあらゆるデータを収集・解析する機能」を考えると、何か、対策を立てなくてはならない状況であった。(STARS の R は、Reference である。STARS は、当初から、データ解析ツールという側面と同時に、データ収集という側面を意識していた。これは、私ではなく、当時の修士課程学生の山口弘市君と Julio Gomes 君の先見の明である。)

 メタデータは、観測データを記述するデータである。観測データよりも貴重なメタデータはないが、観測データをより多角的に幅広く利用するためには、メタデータが果たす役割は大きい。そこで、STARS4 では STARS のアプリケーションとしての機能(データプロット機能やデータ解析機能)の開発を少し遅らせて、メタデータの収集と管理に重点を置くこととした。この機能が、後で述べる STP 分野での Virtual Observatory(VO)などの発想に結びついていく。同時に、宇宙研などの各データ公開機関にメタデータを定常的に生成してもらい、それを公開してもらうというプロセスも必要となる。

 STARS4 では、もうひとつ、解決をしなくてはならない問題点があった。それは、メタデータベースへの接続の問題である。STARS3 では、上述のとおり、メタデータベースへの接続に ACCESS を使っていた。ACCESS は安価で使いやすい DBMS であるが、どちらかというとローカルコンピュータ上での利用を前提としていた。したがって、多くのユーザが STARS を利用するためには、メタデータを定常的に配布しなくてはならない。もちろんこれは現実的ではない。したがって、STARS ユーザアプリケーションから、ネットワークを介して愛媛大学が管理する STARS メタデータベースに接続するサービスが必要となる。この機能が、後で述べる Web サービスの導入に結びついてくる。

 次号では、STARS5の中心となるメタデータ収集と Web サービスの導入について述べようと思う。この2つの概念を合わせたシステム(図 16)が、VO に近づいてくる。


図16 WS を活用したメタデータ収集システム
(図をクリックすると 拡大図が別ウィンドウで開きます。)

 余談であるが、当時、とあるデータベース関係の予算申請に、「太陽地球系物理観測分野のメタデータベースの充実」というテーマで申請したことがある。その際、審査員から「データベースというのは、観測データを一元的に管理するものを言うのである。申請者はデータベースを勘違いしている」と評価されて、辛い思いをしたことがある。また、「各研究機関のメタデータを収集してデータベース化することは、まるで愛媛大学からすべての観測データを公開している錯覚をユーザに与えるので協力できない」という意見もあった。当時、まだ、メタデータの意義が理解されていなかったからであるが、若い人(私もまだ若いが)には「自分が信じることは、他人になんと言われても貫き通しなさい」というメッセージを伝えたい。(これは、私の恩師の松本紘先生(現京都大学副学長)に言われた言葉の受け売りである。)

次号 に続く)

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宇宙情報システム講義第1部
衛星データ処理システムをこう作ってきた(第4回 SIB)

宇宙研計算機,ネットワークに関するお知らせ


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