PLAINセンターニュース第163号
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「はやぶさ」のサイエンスデータアーカイブ公開

安部 正真
宇宙科学研究本部 固体惑星科学研究系、
月・惑星探査推進グループ 研究開発室

 先月の 24日に「はやぶさ」のサイエンスデータアーカイブが公開されました。公開されたデータは次のウェブサイトからアクセスすることができます。

(URL) http://hayabusa.sci.isas.jaxa.jp/

 本稿では、このアーカイブスについて説明いたします。

 「はやぶさ」は 2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機で、2005年9月に小惑星イトカワに到着し、約 3ヶ月間にわたってイトカワの観測や表面へのタッチダウンなどを行いました。

 「はやぶさ」には、可視分光撮像カメラ(AMICA)、レーザー高度計(LIDAR)、近赤外線分光器(NIRS)、蛍光X線スペクトロメータ(XRS)の4つの科学観測機器が搭載されています。これらの観測機器によって得られた科学データは、「はやぶさ」サイエンスチームで初期解析が行われ、その初期成果は Science や Nature を初めとするいくつかの論文として発表されています。並行して、サイエンスチームではチーム外の研究者にもデータを公開する準備を進めてきました。このたび、レベル1データについて公開の準備が整ったため、アーカイブ公開の運びとなりました。

図1 はやぶさサイエンスデータアーカイブのトップページ

 高次な加工データについても順次整備追加されていく予定ですが、現時点では以下のデータを取得することが出来ます。

AMICA:300nm〜1100nn における広帯域フィルターを備えたカメラを使って撮像された画像データが 1,662 枚。小惑星イトカワの全体像や表面近接撮像のほかにも、地球スイングバイ時の地球・月の画像も含まれている。

LIDAR:はやぶさ探査機から小惑星イトカワ表面までの距離を、レーザーを反射させて計測したデータ。小惑星表面にヒットした 1,665,548 点のデータが得られている。

NIRS:764nm〜2248nm におけるスペクトルデータ。打ち上げ後から合計で 117,938 本のデータが取得されている。小惑星イトカワ表面の反射スペクトルデータが主であるが、地球、月、火星、木星、土星などのスペクトルデータも得られている。

XRS:X線 CCD で取得された 0.7〜10KeV におけるX線スペクトルデータが 15,451 本。太陽X線を励起源として発生した小惑星表面の蛍光X線データのほか、航行中に取得したX線天体の観測データも含まれている。

SPICE:はやぶさ探査機の位置・姿勢データ、機器のアライメント情報などデータのジオメトリ解析に必要なアンシラリーデータ。(SPICE は Navigation Ancillary Information Facility (NAIF) が開発した情報システムで、はやぶさでもその汎用性・柔軟性からこのシステムを採用している。NAIF および SPICE については、http://naif.jpl.nasa.gov/naif/ 参照)

Shape Model:はやぶさミッションで得られた小惑星イトカワの詳細な形状モデルの数値データ。


図2 AMICA データのダウンロードページ(例)

 現時点でのデータアーカイブサイズは、AMICA:1.16GB、LIDAR:19.1MB 、NIRS:131.9MB、XRS:286.4MB、SPICE:68.8MB、Shape Model:213.8MB、でトータル 1.9GB です(圧縮されているデータは圧縮時のサイズで計算)。

 観測機器の生データ以外にも、機器の観測データログや機器の打ち上げ前校正情報や関連論文などの情報も掲載し、はやぶさの科学観測機器データの解析に必要な情報を集約するようにしています。

 データ公開から1週間のアクセス解析では、トータルの訪問数は 2万件(ピーク時は 1日約 8千件の訪問)を越え、15万ページの閲覧(同約 6万ページ)、約 100万件のデータアクセス(同 30万件)がありました。他のデータベースとの比較はまだ出来ていませんが、JAXA各本部のトップページにおける通常のアクセス数と同程度(あるいはそれ以上)を記録しています。

 まだ観測データごとのジオメトリデータは観測データファイルには付属されておらず、キャリブレーションなどを施した 2次データ(レベル2データ)も一部の観測機器でしか実現できていないため、今後も引き続きサイエンスアーカイブの更新作業は継続される予定です。並行して、実際にデータ解析を行う研究者からの質問や意見なども反映させてより使いやすいデータベースにしていきたいと思っておりますので、皆様ご協力お願いいたします。

 なお、本データアーカイブスは現時点でははやぶさミッション単独のデータベースですが、将来的には PLAIN で取りまとめていただいている ISAS ミッションのデータアーカイブス DARTS や、今年度新しく発足した月惑星探査グループとしての惑星探査データアーカイブスに組み込んでいただくことも検討中です。また、はやぶさミッションでは NASA との協力で PDS (Planetary Data System) としても格納してもらう予定で、その準備も進めています。さらには現在、NSAS, ESA, JAXA などを含んだ世界の宇宙機関で相互運用できる惑星探査データアーカイブ構想 (International Planetary Data Alliance) も進められており、本データアーカイブスはそのテストベンチになると考えられています。

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