No.301
2006.4

ISASニュース 2006.4 No.301

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磁気圏尾部観測衛星ジオテイル その4 

井 上 浩 三 郎 


「ジオテイル」


プラズマ観測装置のラッチアップ

 さて、プラズマ観測装置(LEP)のラッチアップを解消する唯一の方法として、日陰を利用して衛星を一度仮死状態にするという結論を得たものの、いざ実施する上では、プロジェクトを預る西田篤弘先生は胸の詰まる想いだったことでしょう。その大変なリスク覚悟のオペレーションについて、向井利典先生の記述。

 dash 1993年9月1日深夜、ジオテイル衛星の打上げ後初めての日陰の最中に、バッテリーを衛星電源システムから切り離すというウルトラCのオペレーションが行われました。(中略)当日、相模原衛星管制センター、臼田、内之浦には、ジオテイル衛星や地上系システムに熟知した宇宙研やメーカーのベテランが駆けつけ、万全の体制が敷かれました。できる限りの検討を重ねてきたとはいえ、やはり未経験のオペレーションです。一種異様な雰囲気が漂っています。22時34分(日本時間)、少しずつ太陽電池の出力が落ち始めました(半影の開始)。搭載の観測装置、共通機器の大半をコマンドで正常にオフ。本影終了3分前の23時25分、ついにバッテリー切り離しのコマンドを送信、電波が途絶える。約10分間、なんと長かったことか。衛星が半影に出てきて、太陽電池出力の上昇に伴って徐々に電波強度が復帰、さらに数分置いて安定したところでコマンド送信、PCMテレメータの復調機がロック。衛星の状態をチェック、目的としていたLEPのラッチアップ解消に成功したことが確認されました。dash  

 上記の文章中「日陰」とは、月による陰のことです。上杉邦憲先生の指導のもと、ミッション達成に影響しないように当初の軌道計画を変更し、衛星を意識的に月の陰に入れました。

 先日、西田先生に伺ったところ「あのオペレーションは、日米の研究者の信頼関係があったからできたことです」とおっしゃっていました。


「注液」作業をモニターするRCS(リアクションコントロールシステム)チーム



科学的成果

 ジオテイル衛星の研究目的は、地球磁気圏尾部の構造とダイナミクスおよび磁気圏の高温プラズマの起源と加熱・加速過程を明らかにすることです。そのため、月との二重スウィングバイ技術などを駆使して、衛星軌道の遠地点が常に地球磁気圏の尾部にくるように制御されました。

 1992年7月に打ち上げて以来、2006年3月で13年8ヶ月が経過しましたが、現在も衛星の状態は良好であり、7つの搭載科学観測機器は順調に観測を続けています。ジオテイルは、これまでに幾多の成果を挙げ、宇宙プラズマ物理学の研究進展に大きく貢献して、世界的に高く評価されています。

 そしてこの原稿を執筆している最中に、西田先生のCOSPAR賞受賞といううれしいニュースが舞い込んできました。ヴァン・アレン博士を第1回の受賞者とする、この栄誉ある賞を受けられる西田先生のご業績に、ジオテイルの成果は重要なものの一部として含まれているでしょうから、誠におめでたく、ジオテイル・チームとしても誇らしいことです。


休日のひととき

 一貫してジオテイル・ミッションをリードされた上杉先生は、長期滞在に備えて、ケネディ宇宙センターの近くの河畔に建つ低層マンションの一室を借りておられました。先生は試験のために日本から到着する実験班を、1週間に一度の休日のたびに自宅に招かれ、庭先の川に仕掛けた網に入ったカニを酒の肴にもてなしてくださいました。現地での緊張から解放されたひとときでした。その気配りに皆、感謝しました。このような心尽くしが、初めての本格的な国際共同計画を大勝利に導くチームを作り上げたのだと、今しみじみと思います。

(いのうえ・こうざぶろう) 


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