No.301
2006.4


ISASニュース 2006.4 No.301 

17人目

宇宙の一番新しい客人  


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日本福祉大学情報社会科学部 宇 野 伸 一 郎  


 超新星とは、星がその一生を終えたときに起こす大爆発のことを指す。その爆発はすさまじく、たった一つの星が銀河と同じくらいの光度に輝くように見える。人類の歴史上、10個ほどの超新星が記録に残されている。しかしその昔は、夜空にひととき輝いて消えてゆく「客星」とされ、それが星の最期の姿だとはまだ誰も気が付いていなかった。SN1987Aは近代天文学が発達して以来、地球から最も近い距離に現れた超新星だ。その距離は約16万光年(約150京km)。我々の銀河系のすぐ隣の大マゼラン雲に出現し、最大3等級の明るさで輝いて見えた。


SN1987Aの現在の姿。ハッブル宇宙望遠鏡の可視光のイメージに、チャンドラX線天文台のX線イメージを紫で重ねている。超新星から発した光や高速の衝撃波が、かつて放出してきたガスに衝突し、さまざまなリング構造が可視光やX線で見えている。 (C)NASA/CXC/SAO

 星の内部では、水素がヘリウムへ、ヘリウムが炭素/酸素/窒素などへと核融合反応が繰り返されており、星はそのエネルギーで光っている。星の内部は、酸素や炭素、鉄などの重い元素を生成している場所でもあるのだ。星は、その内部で元素を合成しながら、輝き続ける。しかし、いつかはその燃料を使い果たす時が来る。静かに光を失う星もある一方で、特に太陽の数倍という大きな星では、劇的な最期が宿命付けられている。それが大きな星の生涯の終わり、「超新星爆発」である。

 星は重ければ重いほどその寿命は短く、短いものでは数百万年から数千万年しかないといわれている。数千万年という時間を人間のタイムスケールで考えれば、そのあまりの長さに気が遠くなるだろう。しかし同じその時間を、星は一生をかけてたどっていく。数千万年を一生としてみる視点に立てば、人間の世界の小ささにあらためて驚かされるだろう。この数千万年、地球では数多くの種の生命が生まれ、そして滅びていった。恐竜が栄え、ローマ帝国の興亡があり、ベートーヴェンが魂を揺さぶり、数限りない喜びと悲しみを浮かべながら、地球は回っていた。それを、一つの星が、その一生の中で静かに見守っている。そんな時間軸を持つ世界が、この宇宙には存在する。それが星たちの時間であり、SN1987Aの時間である。もしかしたら、雑務に忙殺される人間の時間よりも、星たちの時間の方がはるかに人間的なのではないだろうか。そして、その悠久の時間を持つ星の一生の最期が、超新星爆発、という現象なのだ。

 もう一つ。それがいかに華々しかろうと、その死が未来の創造に加担するものでなければ、爆発はその一瞬で終わるむなしい破裂にすぎないであろう。しかし、安心していただきたい。超新星爆発は、確かに、一つの星の終焉ではある。が、そこで飛び散った星のかけらは、宇宙空間に広がって、いつの日かまた新たな星を作るための材料となるのだ。しかもその爆発は、星の内部で作られた鉄や炭素などの重元素を宇宙に供給するという重要な役割を担っている。現在、SN1987Aは、爆発以前に星自身が放出したガスと爆発で飛び散った物質がぶつかって、再び光り始めている。その様子は2006年現在、X線天文衛星「すざく」などによって観測されつつある。宇宙空間へのガスの広がりは、まだ始まったばかりである。この天体のおかげで、超新星になる直前の星がガスを放出する様子について、初めて詳細なことが分かってきた。近代天文学始まって以降、最も近い超新星とは、「見る事なす事、すべて新しい」という、非常に大きなインパクトを持った天体ということなのである。

 星の内部で作られた元素が、超新星爆発で宇宙空間にばらまかれる。それらはまたいつの日にか集まって星を、惑星を形作る。地球もそうして作られた惑星の一つである。そして、そこに生きる生命も。我々の体を作る炭素や窒素も、超新星爆発でばらまかれた星の一部である。超新星のかけらを受け継ぐ宇宙の○人。それは、あなた自身なのかもしれない。

(うの・しんいちろう) 


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