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はやぶさ近況 「はやぶさ」がイトカワに到着


「はやぶさ」

 2003年5月に打ち上げられた第20号科学衛星「はやぶさ」は,その探査対象である小惑星イトカワに到着し,ランデブー飛行を開始しました。「はやぶさ」は,2003年6月末からイオンエンジンの運転を開始し,2004年5月の地球スウィングバイによって,小惑星イトカワを目指してさらなる加速と軌道面修正を行いました。本年2月には遠日点(太陽から最も遠ざかる点)を,5月には地球から2.6天文単位の最も遠い点を通過し,7月には地球から見て太陽の裏側の地点である「合」を切り抜けるという,三つの難関を乗り越えてきました。7月30日には,探査機の姿勢を制御するために使用するリアクションホイールの一つを故障で失うという非常に大きな試練がありました。8月28日にはイオンエンジンの運転を停止し,その後は化学エンジンによる微小な軌道修正を繰り返して,9月12日の日本時間午前10時,イトカワから地球側に約20kmの通称ゲートポジション点に,相対的に静止することに成功しました。我が国が,他天体にランデブーを行うのは初めてのことです。

 火星探査機「のぞみ」は残念な結果となりましたが,その経験を随所に活かすことによって,「はやぶさ」は我が国の惑星探査に大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。諸外国もイオンエンジンの実用化と天体へのランデブー探査を計画していますが,次と目されるNASAのDawn探査機も打上げ準備中であり,今回の飛行はまさに世界的に見ても初のことです。加えて,「はやぶさ」は往復飛行を目指しています。途中にランデブーを経過させて往復飛行を行わせる計画は,「はやぶさ」以外には開発中のミッションさえもありません。我が国の技術レベルを世界に訴えられる時代がようやく実現したとの思いがあります。

 今回のランデブーは徐々に減速を行ったため,接近してからの飛行には長時間を要しました。8月末には時速36kmという自動車並みの速度で,イトカワから3500km地点にありました。それから2週間,まるで台風の接近のようにしずしずと近づいていきました。軌道修正も数十cm/秒ずつという精密さで,最後の静止化の軌道修正も7cm/秒を逆噴射させて,0.25mm/秒というほぼ完ぺきな静止条件を実現しています。NASAのDeep Impact探査機は世界中の関心を集めましたが,飛行制御の精密さでは「はやぶさ」の方がはるかに勝っており,大いに誇りたいものです。

 こうして到着したイトカワは,実に意外な表情を見せてくれました。人類はこの大きさの天体の素顔に初めて接したといえます。誰もがきっとこうだろうと想像していたことは見事に打ち砕かれ,その形成・成因の謎解きがさっそく始まっています。

 搭載した科学観測機器は正常に機能しています。多波長域での可視カメラ撮像,近赤外の分光,蛍光X線分光観測,レーザ高度計による地形計測など,科学観測結果は毎日順調に収集されています。10月上旬には,高度を約7kmにまで下げ,より詳細な観測と着陸点選定のための地図づくりが始まります。そして11月には,1回のリハーサル降下に続き,2回の着陸と試料採取を予定しています。

 「はやぶさ」の航法,誘導,推進と軌道計画には,ほかに手本がありません。先日はさらにもう一台のリアクションホイールが故障するアクシデントもあり,探査機バスシステムは完調ではないわけですが,これから,接近・降下と着陸・試料採取という,これも前人未踏の挑戦を行ってまいります。慎重にかつ勇気をもって臨みたいと思っています。最後に,JAXA全体の各方面からの協力に深くお礼を述べるとともに,今後ともご支援を賜りたく,誌上ながらお願いする次第です。

10月2日に高度約8kmの地点から撮影されたイトカワ

(川口 淳一郎) 


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