No.295
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ISASニュース 2005.10 No.295 11人目宇宙の苦労人 GX 339-4 |
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日本大学理工学部物理学科宇宙・数理解析研究室 根 来 均
GX 339-4。この天体をご存知の方はおられるだろうか? その知名度は,あまりに低い。白鳥座X-1(Cyg X-1)に次いで2番目に発見されたブラックホールらしき天体であるにもかかわらずだ。「なんだ2番手か」と思われた方もおられるかもしれない。しかしGX 339-4は,ブラックホールを研究する者にとって,「優等星」の白鳥座X-1を(はるかに?)しのぐ魅力的な特徴を多く持っている。
GX 339-4は1970年代初頭まで,白鳥座X-1などとともに,ほかのX線星とは異なる不規則な短時間変動を示す奇妙な天体として認識されていた(図1)。しかし,白鳥座X-1はその後,連星を組む相手方の星の運動から,その質量が中性子星が持ち得る上限の質量を超える,つまりブラックホールかもしれないということが分かった。その結果,白鳥座X-1は一躍,時の人,いや「時の星」となり,一方のGX 339-4はその後長い間,白鳥座X-1とよく似た特徴を持つからブラックホールだろう,という1ランク下の第二集団に入れられてしまった。
しかし,GX 339-4は「ブレイク」する。 多くのブラックホール候補天体では,明るく穏やかな状態と,先に記した奇妙な短時間変動が観測される暗い状態の二つの姿が,X線で観測される。エリート路線をひた走る白鳥座X-1は,明るい状態が観測されるたびにその珍しさゆえ,『Nature』に掲載された時期もあった。一方,GX 339-4は,白鳥座X-1よりはるかに高い頻度で状態変化を起こすことが分かっている。さらに,白鳥座X-1は決して見せてくれない,発狂状態ともいうべきより明るくさまざまな不可解な時間変動を示す状態(図2)や,瀕死ともいうべき非常に暗い状態など,技のオンパレードのごとく物理的に興味深いさまざまな変化をも見せてくれた。それらの現象の中には,その特異さゆえ,まだ見つかっていないブラックホールである直接の証拠が隠されているかもしれない。
そんな魅力的なGX 339-4が,どうしてここまでマイナーなのか。名前が悪いのかもしれない。GX 339-4は「銀河X線源の銀経339度,銀緯−4度に位置するもの」という安直なネーミングであり,優雅でかつ神秘的な雰囲気が漂う「白鳥」を冠するライバルとは,最初から水をあけられている。その特徴から,いっそのこと「ミラクルX」とか,対抗して「黒鳥座X-1」(注意:そんな星座はない)にでも改名していたら,状況も変わっていただろうか。最初の発見を重んじる科学の世界ゆえ,永久に2番手でも仕方ないのかもしれない。 そんなGX 339-4も一昨年,ようやく質量が5.8太陽質量程度と分かり,名実ともに第一集団に入った。GX 339-4,別名ミラクルXから,まだ目が離せない。
(ねごろ・ひとし) |
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