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科学観測を開始した「すざく」

 この7月10日に打ち上げられたX線天文衛星「すざく」は,8月中旬にファーストライトを迎えた後,本格的な科学観測を開始した。7月末からの観測機器の立ち上げの途中で,X線マイクロカロリメータ(XRS)による観測が不可能になるという不具合が発生したものの,硬X線検出器(HXD)とX線CCDカメラ(XIS)は順調に観測を続けており,期待通りの性能を発揮している。

 XISは全部で4台搭載されており,うち1台には新開発の背面照射型CCDが採用されている。この背面照射型CCDは,約1keV以下のX線に対する分解能が優れており,超軟X線の観測に威力を発揮する。一方,HXDは硬X線から軟ガンマ線領域を受け持つ検出器で,バックグラウンドを極限まで落とすことで,硬X線領域で過去最高の感度を達成している。「すざく」はこの2種類の観測装置により,0.2〜600keVという広帯域を一挙に観測することができる。

 「すざく」は,8月後半から本格的な科学観測を開始した。X線からガンマ線の波長域ではチャンドラ,ニュートン,RXTE,インテグラルなどの衛星が活躍中で,これらの衛星との協力と競争のもと,優れた成果を出す必要がある。それには,XISとHXDの特長を踏まえた上で,その性能を極限まで引き出す観測を行わなければならない。一方,打上げ前に準備した観測計画はXRSに特化しており,使えない。そこで,科学ワーキンググループで急きょ観測天体の選定を行うことになった。ところがメンバーは全世界に散らばっている。そこで,電子メールと電話会議システムを駆使し,迅速かつ濃厚な議論を重ねて観測天体の選定を行っている。時には,天体選定から観測までが1週間という慌ただしいスケジュールになったものの,そこは練達の運用チームに支えられて,順調に観測が続けられている。

 9月末までには約30天体を観測し,その種類は通常の星から銀河団にまで及んでいる。「すざく」の第一の特長は,硬X線領域での過去最高の感度である。それを活かした観測の手始めとして,活動銀河核の「ケンタウルス座A」(HXDのファーストライト)やNGC4945,MCG-6-30-15,NGC2110などを観測し,硬X線放射をきれいにとらえている。一方,硬X線観測で初めて見えてくるのが非熱的宇宙である。そこで「すざく」は,宇宙線加速の現場である超新星残骸SN1006やRX J1713.7-3949の入念な観測を行った。硬X線観測は電子の加速効率を探るために不可欠で,解析結果が待たれるところである,

 「すざく」の第二の特長は,軟X線領域でのXISの優れた特性である。特に,大きく広がった天体は,チャンドラやニュートン搭載の分散型の分光器が使えないため,「すざく」の格好のターゲットになる。この特長が遺憾なく発揮されたのが,黄道北極の観測である。銀河系内には100万度程度の高温の星間ガスが至る所に存在し,我々の太陽系もそのようなガスの中にいると考えられている。ほかに明るい天体の少ない黄道北極を観測することで,このようなプラズマからの輝線放射を直接とらえることができる。「すざく」は,高階電離した炭素や酸素からの輝線を明確に検出しており,その性能の高さを実証した。

 このような観測の中で,最初に科学成果としてコミュニティーに速報されたのが,回帰型X線パルサーA0535+26の観測である(ATEL #613)。「すざく」は,フレアのピークから2桁近く減光したところで観測し,45keVにサイクロトロン共鳴構造を見事に検出した(図)。サイクロトロン構造は,X線パルサーの輻射領域の磁場強度を直接探る唯一の方法であり,今後重要なデータになると考えられる。

「すざく」の硬X線検出器(HXD)で観測した回帰型X線パルサーA0535+26のエネルギースペクトル。サイクロトロン共鳴構造が見事にとらえられている。

 「すざく」では,現在新たな公募観測の募集案内を準備中であり,来年度からは公募に基づく天体観測を行う予定である。

(堂谷 忠靖) 


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