No.208
1998.7

ISASニュース 1998.7 No.208

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宇宙輸送のこれから(5) 

ロケット推進による完全再使用型宇宙輸送システム
  ロケットSSTO実現へ向けて 


谷口 浩文  

 現在,宇宙へ物や人を運ぶ輸送システムとして使われているものはロケットだけです。そして,このロケットの技術は約40年の歴史の中で,徐々に発展してきましたが,多段式のロケットで次々と使い終わった部分を捨てながら物を宇宙まで運ぶという基本的な原理は変わっていません。使い終わったら一回で捨ててしまうのでは,とても効率のよい輸送システムとはいえませんし,輸送コストも非常に高いものになってしまいます。それではロケットを使って効率のよい宇宙輸送システムは考えられないのでしょうか。それは,単段式で物や人を宇宙に運んだ後,どこも捨てることなく,また地球に戻ってきて,何度も繰り返し使える飛行機のようなロケットです。このロケットを再使用型のロケットSSTO( Single- Stage-To- Orbit )といいます。アメリカでは使いやすい宇宙輸送系としてスペースシャトルを開発しましたが,これとて多段式で一部を捨てています。また,当初,予定していたより整備費用がかかり,効率のよい輸送システムにはなっていません。もちろん,過去,多くの人たちが,ロケットSSTOの概念を提案してきましたが,いずれも開発には至りませんでした。それは,ロケットSSTOを実現しようとするとロケットの機体を非常に軽くする必要があるからです。現在,もっとも性能がよいと考えられる液体水素/液体酸素を燃料とするロケットエンジンを使用したとしても,たとえば地上からの発射時,800トンの重量のロケットSSTOとした場合,700トンの燃料が必要となり,残りの100トンを,燃料タンクやロケットエンジン,機体構造や宇宙から帰還するときに必要となる熱防護システム,その他必要な機器類さらにはペイロードにも振り分けねばなりません。これでは,あまりに開発のリスクが大きく,誰も開発に着手できませんでした。

 しかしながら,近年,このロケットSSTOの実現性が高くなってきています。非常に軽い構造材料や熱防護材の発達や,ロケットエンジン技術の確実な進展により,その実現性が真剣に検討され始めています。アメリカでは,このロケットSSTOの実現可能性を実証するために,約10億ドルを投じて,X-33という実験機を使って,1999年に飛行実験を行う計画を進めています。この実験機にはロケットSSTOを実現するために必要となる技術がいろいろ取り込まれています。機体をできるだけ軽くするための複合材を用いたタンクや機体構造,さらには特殊な機体形状,また整備の簡単な熱防護システムや高性能で軽いロケットエンジン等がこの実験機に用いられます。もし,このX-33による実験がうまくいけば,2000年代の半ばにはロケットSSTOが実現するかもしれません。前回までの解説で述べられてきたように,エアブリージングエンジンを用いたスペースプレーンは21世紀の地球と宇宙を結ぶ新しい宇宙輸送システムの概念ですが,ロケットSSTOに必要とされる技術と多くの共有部分を有しています。ロケットという比較的成熟した技術を基礎として,再使用型のロケットSSTOのような効率のよい宇宙輸送系が実現できれば,その技術はさらにスペースプレーンへの技術へと発展していくことが期待されます。現在,我が国においては,宇宙往還実験機( HOPE-X )の開発が進められています。これにより宇宙から地球への帰還技術を習得することが可能となります。この技術と,長年培ってきたロケット技術をもとにしてロケットSSTOへの実現をめざす研究も始まりました。再使用のロケットSSTOの実現には多くの技術チャレンジが必要となりますが,21世紀の宇宙活動を担う有力な宇宙輸送系候補として,国内の関係機関,諸外国とも力を合わせて,その実現にむけて技術開発を行っていく必要があります。

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(宇宙開発事業団 たにぐち・ひろふみ)



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