No.208
1998.7

            ISASニュース 1998.7 No.208

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+ M-V-3号機打ち上げ成功
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M-V-3号機打ち上げ成功
小野田淳次郎    


 我が国初の火星探査機PLANET-Bを搭載したM-V-3号機は,梅雨の時期にも拘わらず予定通り,7月4日未明3時12分に打ち上げられた。我が国の月・惑星探査の幕開けを高らかに宣言するように,轟音を響かせ,眩い光を放ちながら機体は上昇した。快晴の夜の打ち上げであり,ロケットは第3段の燃焼までも目視で確認できた。M-V-3号機は予定通りの軌道を順調に飛翔し,第3段までの燃焼でひとまず低高度の地球周回軌道(パーキング軌道)に乗った。約20分後第4段は所定の方向に向けて点火され,探査機を予定の月遷移軌道に投入した。ただ,第4段点火時にテレメータデータを実時間で取得する手段を用意していなかったため,探査機が予定の月遷移軌道に投入されたことの最終確認には海外局の追跡情報により軌道が確定されるまでの数時間を要した。さまざまな傍証から,成功したに違いないと確信しながらも,晴れて成功と言いにくいもどかしさを感じた数時間であった。

 M-V-3号機のフライトオペレーションは打ち上げ日の1ヶ月余り前に始まった。先ず,衛星班は6月2日から早々と作業を始め,19日までにKSC輸送後の各種チェック及び推進薬の注液作業等を予定通りに終了。PLANET-BにNTO/ヒドラジンの液推進系が搭載されており,宇宙研としては初めてのNTO注液作業も含まれていた。17日からはロケット側各班の作業も始まり,22日には西田所長出席の下,全員打合せ会が持たれた。23日にはノーズフェアリングを被せる前の頭胴部最終チェックとなる動作チェックを無事に終了した。1号機に比べて気味悪いほど順調に進んだスケジュールであったが,この頃には作業もいよいよ佳境に入り,残業も増え,雰囲気も士気も盛り上がっていた。ただ,梅雨の時期ゆえ毎日続く雨天と屡々訪れる雷は不安の種であった。

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 これまで米,ロ,仏において,地上試験や飛行試験が行われて来ましたが未だゴールは示されていません。ここで特に記述しておきたいことは,地上風洞試験では高温空気を吹き出す特殊なエンジン燃焼風洞が用いられますが,可能な模擬飛行マッハ数は約が上限で,それを越えるマッハ数には衝撃波を利用して空気のエンタルピを高める高温衝撃風洞が用いられることになります。しかしその性質上試験時間は数ミリ秒と極めて短いものであり,従ってマッハ以上での実証には飛行試験が是非とも必要になります。

 その天候が変わり始めたのは小山気象班チーフが天気と強気をみやげにKSCに到着してからである。6月29日には雨を嫌う頭胴部を整備搭に運び,全段結合を行う計画であったが,どの天気予報を見ても雨の予報。日曜日の28日は晴れの予報なので28日に作業を行い,月曜日の29日を休みにすることも検討していた。しかし小山気象班チーフはきっぱりと「28日29日も問題なし」と予言。実験班として信じるべきは勿論我が気象班の予言。結果は29日には雨は降らず晴れ間も現れ,予言的中。気象班の信頼は一気に上がる。気象班は続けて「4日の打ち上げまで天候は絶好調」と追い打ちをかける。この時点では天気予報は曇り時々雨又は曇りの日々を予報していた。30日,ロケットを整備搭から出し,発射姿勢での動作チェックも快晴とは行かないまでも無事終了。翌7月1日からは晴れ続きで雷も皆無。この時期としては考えもしなかった幸運。作業は快調に進み,気象班に対する信頼は益々高まることとなった。ところで,6月28日の夜,「予測を誤った」と某班チーフからかかってきた電話は,私の幻聴だった事にしておこう。

 7月2日には写真のように好天の中,電波テストを無事終了。4日の打ち上げに向けて準備完了である。翌3日15時からタイムスケジュールに入り,打ち上げの為の徹夜の作業が始まった。毎度のことであるが,何と手慣れた実験班であることか。各班間の連携を保ちつつ,確実かつ迅速に,どんどん作業は進められて行く。実験主任など居ても居なくても良さそうである。万一の商用電力停電に備えて自家発電機も起動されるが,必要最少限の電力を賄う能力しかない。冷房は一斉に切られ,照明も必要最少限に絞られる。ロケット搭載機器と衛星は内部電源に切り替えられ,着脱コネクタが外される。発射準備完了である。-60秒からのカウントダウン。発射。頑張れM-V。瞬間,半地下の管制室も揺れた。

(おのだ・じゅんじろう)





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PLANET-Bが,「のぞみ」となった日
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