No.208
1998.7

ISASニュース 1998.7 No.208

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平原・碧空・旭鷲山

的川 泰宣    

 飛行機から見下ろすウランバートルの町は,まるで平原に浮かぶ小島のようである。そこだけが人々の居住を許されているかのように違う色合をしている。空港に降り立って,空を見上げて驚いた。抜けるように碧い。モンゴルの人々は,これを「フフ・テェンゲル」と表現して自慢する。まるで蒼穹の高さが数倍になったかのような青さである。

 6月20日,第回アジア太平洋宇宙機関会議(APRSAF)のために訪れたウランバートル。久しぶりに初めての国への5日間の旅である。

 ここまでは,関西空港からの直航便で来た。気流の状態がよくないというので,ウランバートル空港の上を1時間ばかりぐるぐる回りつづけた上での着陸だった。アジアでは珍しく,着陸の際に拍手が起こった。1カ月前にモンゴル航空の飛行機が墜落したことを憶えている人々の安堵の拍手だったのだろう。車で30分ほどで,宿泊先であり会議場であるチンギス・ハーン・ホテル着。昨年できたばかりのモンゴル随一のホテル。ただし,格としてはパリの三つ星くらいか。


【似而非モンゴル人】

 滞在中,モンゴル人に間違えられた回数は10回どころではない。モンゴルの人をそれほどいっぱい知っているわけではないが,チンギス・ハーンの肖像画や旭鷲山から想像するに,キツネ目の人が多いと思っていた。しかしどうもそうでもないらしい。

 まず来る時のスチュワーデスがモンゴル語で話しかけてくる。コーヒーとか紅茶とか言っている時はあしらっていたが,さすがに食事のメニューの話になり,うっかり適当に「後者」などと答えて,質問が「マトンかヘビか」なんてものだったら困るので,「英語か日本語で言ってくれ」と頼んだら,私の隣りの席の若いビジネスマンが「アッ」と驚きの声をあげた。この人も私をモンゴル人と思っていたらしい。


【生活】

 今回はゼネラル・チェアマンという窮屈な役柄だったので,ウランバートルの街中さえ,散策する時間もほとんどなかった。わずか数時間の印象と耳で聞いた話。モンゴルは日本の4倍くらいの大きさに240万の人口。その4分の1が首都ウランバートルに住む。ウランバートルで普通のアパートが立ち並んでいるのは2km X3kmの範囲内で,それを越えるとすぐに平原地帯がひろがり,ゲルが居並ぶ。

 ゲルを覗くと,居心地は意外とよさそうだが,困ったことにトイレがない。それと,ゲルで生活する人は気分に応じて移動していくので,郵便が困るらしい。

 解放後の文盲率の増加が著しく,大変な社会問題になっている。もちろん経済状況も悪い。

 ホテルの窓際のロビーでくつろいでいる時,窓の外に動きを感じて振り返ったら,なんとガラス越しに牛の鼻先があった。ホテルの庭の草を食べに来ているのだ。ここでは馬も牛も羊も放し飼いになっている。

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 マトンの多かった食事,アルコールは専らビールとウオッカ。胃に絶対の自信を持つ私の腹が少々ゆるくなったのは,何でも挑戦で臨んだから。しかしついに「これは美味」というものには出くわさなかった。


【火箭を求めて】

 忙しいことは予想されたので,モンゴル軍が金から学び世界に伝えた火箭の実物があるのではないかと,日本を発つ時から目的を狭くしぼっていた。めざすは軍事博物館。案内をしてくれたそこの女性職員が英語が堪能で,隅から隅まで詳しく見ることができたが,残念ながら火箭はなかった。

 その女性が「フビライ軍が日本に攻め込んだので,日本人は恨んでいないか」と訊ねたので「いやあ,そんな前のことはもう歴史として学ぶだけなので」と答えたら安心した様子。後で他の人に聞いたところ,チンギス・ハーンの軍隊がかつてロシアに攻め入った時の残虐な振舞いが,スターリンがモンゴルを圧迫する時の口実に使われたらしい。

 ただし「元寇は過去のこと」と鷹揚な態度を見せた後,展示が満州国のモンゴル侵略のコーナーに入ったので,こっちは冷汗。案内嬢が「あれは歴史だから」と鷹揚さを示す段になった。

 要するに日本国とモンゴル国の接触は,この2度にわたる侵攻を以てすべてとする。


【その他】

 モンゴルでは,ロシア文字にモンゴル独特の母音2つを加えたキリル文字を使用。だから読むのには苦労がなかったが,意味は全く分からない。昔の縦書きモンゴル文字復活の運動が起こっているらしい。卒塔婆に書かれているサンスクリットみたいな文字だ。

 旭鷲山はウランバートルの人気者。一度相手の発音が不明瞭で,彼を知らないと答えて,噛みつかれそうになった。会議の模様はISAS事情に。

(まとがわ・やすのり)


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