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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第512号

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ISASメールマガジン   第512号       【 発行日− 14.07.15 】
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★こんにちは、編集担当の阪本です。

 日曜日から研究会のために韓国の済州島に来ています。たまには本業の電波天文学の研究のことを考えるのもいいことです。

 今週は、学際科学研究系の足立 聡(あだち・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ダストプラズマ宇宙実験
☆02:宇宙博、まもなく開幕
☆03:相模原市立博物館での合同企画展「太陽にいどむ」開催
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★01:ダストプラズマ宇宙実験
 
 メールマガジンをご覧の皆様、はじめまして、足立と申します。
ISASの学際科学研究系の准教授として、筑波宇宙センターで勤務しています。私は主として、ダスト(微粒子)プラズマに関する様々な研究を行っており、時折、結晶成長のモデリングも行っています。今回はダストプラズマについてお話ししたいと思います。

 初めに、ダストプラズマの説明の前にプラズマについて簡単に説明します。

 物質の三態と呼ばれる状態があります。温度が低い方から順に、固体、液体、気体です。気体の温度を上げていくと、気体原子は、原子核と電子に分離します。ごく単純に言えば、これがプラズマです。自然界におけるプラズマの最も身近な例は、太陽でしょう。一方、人工物において最も身近な例は蛍光灯かもしれません。

 さて、いよいよダストプラズマです。実験室で行う際には、まずプラズマを作り、次にダスト(微粒子)をプラズマに投入します。そうすると、正電荷を持つイオンと、負電荷を持つ電子とダストとなり、三者を合わせてプラズマとなります。ダストプラズマは宇宙では馬頭星雲やわし星雲などが有名でしょう。

 一方、研究室での実験に関しては、1986年にダストプラズマ中の微粒子が規則的構造を形成すると予測されたことが大きなきっかけとなりました。この規則的構造をクーロン結晶と呼びます。この予測をきっかけとして、ドイツ、ロシア、日本、台湾、アメリカなどで研究が始まりました。 そして1994年にクーロン結晶の観察に成功します。

 以来20年、まだまだ若い学問であり、取り組むべき研究課題が多数あります。しかし、地上ではきちんと観察することさえも困難な現象でもあります。なぜかというと、地上では粒子を厳密にはプラズマでは無い領域にしか浮遊させられないためです。これは粒子に重さがあるためです。

 実験では、直径が1〜10μm程度の直径が揃った粒子を用います。しかし、たとえ直径1μmであっても、地上では粒子を空中に浮かせておくことは不可能ですね。ダストプラズマの微粒子も、地上ではプラズマを作るための電極から数mm離れた位置に浮遊します。この位置は、電極付近の電場により自動的に定まります。しかし、粒子を支えられるだけの電場が存在する領域は、厳密にはプラズマではないのです。これでは困ってしまいます。粒子込みでプラズマになってほしいのに、地上ではそうなりません。

 そのため、どうしても宇宙で実験を実施したい、微粒子プラズマの研究者なら誰しも一度は考えることでしょう。

 私を含む日本の研究チームは様々な幸運と努力の甲斐があって、ドイツとロシアが共同で実施した宇宙実験計画に参加することができました。

 PK(Plasmakristall)−3 Plusという装置で、 当初はISSのサービスモジュールと、サービスモジュールに隣接するドッキングモジュールに設置されて実験が行われていました。後にミニ・リサーチ・モジュール(MRM)がISSに設置されてからは、MRM内に移設されました。

 PK−3 Plusは2005年12月にロシアのプログレス貨物船で打ち上げられ、翌年1月より実験運用が開始されました。運用終了は昨年6月ですので、ISSとしては非常に長期にわたり運用されました。基本的に1年に2〜3回のマシンタイムがあり、各マシンタイム終了後、デー タが回収され次第データ解析を行い、次のマシンタイムでどういう実験を行うかをPK−3Plus国際研究チームで議論し、決定されます。

 日本の研究チームは主として、ダストプラズマの臨界現象に関する研究をPK−3 Plus国際研究チームに提案し、受け入れられました。このため、PK−3 Plusの実験条件、例えばガス圧力、電力、投入する粒子の直径等を決定し、国際チームに伝える必要がありました。

 最も頻度高く実験機会を幸いにしてもらえた時は、データ回収後1ヶ月以内に次の条件を提示といった感じで、かなり大変でした。というのも、データの大半がビデオデータであり、それが長い時は90分以上あります。 データ形式はPALですので、仮に90分とすると、135000フレー ムをデータ処理する必要があります。しかし、1ヶ月以内ではとても無理なので、実際は人間の目でじっくりとビデオを眺め、ビデオを切り出し、それを処理するといったことを行っています。一日中粒子映像を眺め続け るのは、目だけでなく、精神的にも結構つらいです。

 PK−3 Plusは昨年6月に実験運用が終了しましたので、私たち研究チーム一同は現在データ解析を行い、成果のまとめを進めているところです。近い将来、皆様に何らかの形で報告できることと思います。その時またお会いいたしましょう。そして願わくば、私たち研究チームが良い成果を上げ、まもなく飛ぶ次世代装置PK−4に新たに参加できる環境が整うことを願っています。

足立 聡(あだち・さとし) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※