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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第505号

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ISASメールマガジン   第505号       【 発行日− 14.05.27 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパス研究・管理棟前のサツキ(ツツジ?)が咲きそろいました。
新緑を楽しみながらISAS見学はいかがですか

 24日のH-IIA-24号機の打上げパブリックビューイングには、200名が参加されました。ロケット打上げの大音響体験も楽しんでいただけたでしょうか

 今週は、太陽系科学研究系の大竹真紀子(おおたけ・まきこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:月の裏側の話
☆02:君が作る宇宙ミッション参加者募集(締切:6月2日(月))
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★01:月の裏側の話

 皆さんの中で“お月様”を見た事が無い人は、まずいないと思います。私が研究しているのはそのお月様なので、
「何の研究をしているのですか?」
と質問されて
「お月様の研究です」
と答えれば、少なくとも研究の対象は解ってもらえます。


 ですが、2番目の質問として
「月を調べると何が面白いのですか?」
と訊かれることがあります。多くの方にとっては、地球は生物が住んでいて、海も大気もあって多様な世界であり、多様だからこそ調べる事がたくさんありそうなのに対して、月と聞いて最初に思い浮かべるのは、

宇宙飛行士が月面を飛び跳ねる後ろに灰色の世界が広がっていて、
生物も住んでいないし地球のような海も大気も無い、
石ころだらけの“つまらない天体”

というイメージなのだと思います。しかし、私にとってはまさにこの“石ころだらけ”であるということが月を特別に面白くしている理由の1つです。


 私は我々の住む地球と月の成り立ちとその後の進化を知る事で、地球や月を作った天体同士の衝突過程やその後の天体の進化を知り、地球のような天体が宇宙にどのぐらい普遍的に存在するのかを知りたいと思っているのですが、

地球では石ころ=岩石を調べたいと思っても、植物が生えていたり海や湖の下にあったり、家が建っていたり(!)と様々な理由でどこにどのような岩石があるのかを知る事も簡単ではありません。

ですが、月の場合には植物も無く、海や湖も無くもちろん建物もありませんから、どこでも調べ放題で天国のような場所です。

さらに、最近の研究では約46億年前に地球に火星程度の大きさの天体が衝突して出来た破片が集まって月が形成され、地球も月も形成直後は非常に温度が高くて表面にはマグマの海があったと考えられています。

その後、地球も月も冷えたけれども地球は今でも冷えている最中で内部は温度が高く、火山活動や地殻変動などが起こっていて古い岩石はほとんどが失われているのに対して、月は地球よりも小さく(直径で言うと月は地球の約1/4)早く冷え固まってしまったために、地球や月が形成した頃に出来た古い岩石が今でも表面に残っています。なので、月表面の古い岩石を調べれば地球・月が形成した直後のことが解るので“月を調べると面白い”のです。


 ここまではなるほどと思ってもらえたとして、さらに3番目に
「月のどの場所が一番面白いですか?」
という質問に対して
「月の裏側です」
と答えると、相手の方は不思議そうな顔になります。

月を見た事がある皆さんお気づきですよね?月の表面にはいつも“うさぎの餅つき”模様が見えていて、それ以外の模様が見えた事はないはずです。つまり地球からはいつも月の同じ半分側が見えていて、月の残りの半分側は見る事ができません。

それでいつも見えている側を月の表側、見えない側を裏側と読んでいます。私が一番興味を持っているのは、地球からは見えない月の裏側なのです。なぜ興味を持っているのかというと、1つは月の裏側にはまだ探査機が着陸した事がないので、解っていない事がたくさんあるという理由。

もう1つは、私達がこれまでに月周回衛星「かぐや」による観測データを使って解析した結果から(探査衛星は月の裏側に回って観測を行う事ができます)、月の裏側には表側よりも先にマグマの海から固まって出来た一番古い岩石がある事が解ってきたので、その一番古い岩石を調べたいという理由からです。


 というわけで、将来的には月探査で地球からは見えない月の裏側に着陸して、そこから月の中でも一番古い岩石を地球に持ち帰って調べて見たい、と思っています。

そして今日も月の“うさぎの餅つき”模様を見上げつつ、見えていない月の裏半分側に思いを馳せています。月の裏側は地球から直接見る事はできませんが、「かぐや」で撮影した月の裏側の画像は公開されているので、誰でも見る事ができます。
新しいウィンドウが開きます http://www.kaguya.jaxa.jp/ja/document/index.htm

皆さんも一度、普段見えない月の裏側を見てみませんか。


(大竹真紀子、おおたけ・まきこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※