宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2014年 > 第496号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第496号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第496号       【 発行日− 14.03.25 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 春分の日を前に やっと「春一番」が吹いた南関東地方
「ソメイヨシノ」の開花予想が早まって、週末には咲きはじめそうです。

 展示室に 来場記念ポストカード作成機が設置されました。
カードデザインは「ひさき」とイプシロンです。
たくさんの人に利用していただきたいので、一人一枚でお願いします。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます pic.twitter.com/seK2LLulVA
※編注:4月2日現在、不具合につき休止中です。

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の月崎竜童(つきざき・りゅうどう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:学生から助教になって
☆02:「あかり」が捉えた星間有機物の進化
───────────────────────────────────

★01:学生から助教になって

 2013年8月に宇宙飛翔工学研究系の助教に着任した、月崎竜童です。
小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジンの研究を行っています。

宇宙研には2008年から大学院生として在籍していました。当時の研究成果が「はやぶさ2」に反映され、イオンエンジンの推力が40%程向上しました。宇宙研の先生達と比べると、まだまだ社会人として研究者として未熟ですが、今冬の打ち上げに向けて精進させて頂いています。


 学生の頃は、自分の所属していた大学院の箱根駅伝予選会チームのキャプテンとして、研究しながらも、人一倍「部活動」に勤しんでいました。当時は、公務員ランナーの川内くんも学習院大の学部生で、毎週水曜日に胸を借りて練習していたのは良い思い出です。

また全国高校駅伝を制覇した山梨学院付属高校のコーチを務めている依田さんも国立天文台で研究をする大学院生のチームメートで、各々場所は離れていても、一つの大会に向けてチーム一丸となって、研究の前後に20〜30km、ときには40km以上を日々走っていました。

さすがに20km以上の距離を走ると、肉体的疲弊が身体を支配し頭脳は全く動きませんが、10km程度のジョギングなら血液の循環が促進され疲労物質も代謝され、かえって頭がスッキリします。


 特に「研究」というと一意専心になりがちですが、思考の対象との距離感は、非常に大事だと私は感じます。人は考えれば考える程、深く細かく考えがちです。しかし同時に俯瞰的立場に立って自分自身を客観的に見つめなおし、研究対象と距離をおくことも重要です。

学生時代、実験結果の解釈や論文執筆に行き詰まると、近づいては離れ、近づいては離れるという、この一連のプロセスを「走る」ことで幾度と無く繰り返してきました。意外なことかもしれませんが、良いアイデアというのは、経験上、会議室なんかではなかなか出てきません。私個人の場合は、大抵は休日にお風呂の中か、ランニングに出た時か、寝起きに「はっ」と気付かされることが多いです。


 こうやってイオンエンジンの研究をしていると、学生ながらに少しずつ研究が進みました。イオンエンジン内部のプラズマの気持ちを、物理学的に運動規則に則って、理解してあげられるか。そうやって実験結果を見つめなおし、考察を書きます。

学生時代に学んだ数学や物理化学は決して無駄ではありません。論文執筆は英語です。

博士課程に進みもう少し理解が進むと、プラズマを構成する「イオン」と「電子」という2つの重要な粒子のうち、電子はキビキビと電場や磁場の影響をうけ、フットワークが軽い律儀な粒子であることがわかってきました。論文なんかでは、「Magnetize(磁化)された電子」という記述を見ます。

反面、イオンはというのは、どちらかというと、非常にのんびりとしていて、周りの電子がそう動くなら、自分も追従しないと!と動くような粒子です。この相異なる性格の2種類の粒子をきちんと、磁場や電場をつかって、効率よくエンジンを設計するかが研究の醍醐味です。


 こういったイオンエンジンの学術研究に加えて、助教になってからはロケットの仕事にも携わるようになってきました。中でも、着任早々参加してきたイプシロンロケットの打ち上げ業務は、2つの点で印象的でした。

1つは、軌道投入成功によって祝杯をあげるロケット班と、軌道投入直後から不眠不休の初期運用に入る衛星班の見事なまでのコントラストです。これまで私は7年に渡る「はやぶさ」の航海の最後の2年しか携わったことがありませんでした。いわば衛星側にしか立ったことがなかったのですが、ロケット側の打ち上げまでの緊張感や苦労と、そこから開放された瞬間の喜びは、筆舌に尽くしがたいものがあります。


 2つ目は、イオンエンジンとロケットの規模の違いです。どちらも推進機関に分類され、大学の専門教育では同じ教科書に出てくることもあります。しかし研究一つとってみても、イオンエンジンが一研究室で時には1人で実験が遂行可能であるのに対して、ロケットはそのサブシステムの試験一つとってみても大掛かりです。

日本の人口密集した国土を考えると、燃焼ガスや騒音を出せる試験場は、数えるほどしかありません。イオンエンジンの研究では個人の創意工夫や知見がそのまま反映されやすいように思えます、一方、ロケットでは多くの人々が連携して有機的に遂行していきます。無論、イオンエンジンも「はやぶさ」のようにプロジェクト化されれば同じように連携しますが、ロケットはこの連携の効率性が、「プロジェクト」化されるより前の、初期の研究段階から必要となっていきます。


 宇宙工学者としてはまだスタートを切ったばかりの新米ですが、現役として残りは30年しかありません。宇宙ミッションに携わる者にとっては、非常に短い期間ですが、宇宙科学が少しでも前進できるように工学の立場から、頑張って行きたいと思います。

(月崎竜童、つきざき・りゅうどう)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※