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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第495号

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ISASメールマガジン   第495号       【 発行日− 14.03.18 】
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★こんにちは、山本です。

 やっと春らしくなってきました。
先週ちょっと【観梅】とシャレてみました。
なんだかHPで下調べした去年の様子とは違って、満開なのに寂しい咲き方です。

 わが家の近所の梅は、1軒が見事で、もう1軒はパラパラ……
この様子だと相模原キャンパスの【サクラ】は どうなんでしょうか

日々花芽がピンクになってきているので、来週あたりが楽しみです。

 おっと、忘れてはいけません。
相模原キャンパスは、22日(土)は 臨時休館です。
また、ISAS Webは 以下の時間帯停止します。
 21日(金)14時〜23日(日)11時30分

 今週は、総合研究大学院大学の鳥羽儀樹(とば・よしき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:天文学者になりました(・∇・)
☆02:宇宙科学講演と映画の会【新宿区四谷区民ホール】4月12日(土)
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★01:天文学者になりました(・∇・)


「あなたは、どこに(どこの大学に)行きたいですか。」

高校3年生の時の三者面談で、先生は私に進路についてこう聞きました。

私はとっさにこう答えました。

「宇宙に行きたいです!」

先生:「・・・・。」
母親:「(〃ω〃)←赤面」


そんな宇宙大好き高校生が約10年の時を経て、この春から天文学者になります!
子供の頃からの夢が一つ叶った瞬間です!


読者のみなさんの中には、「将来、天文学者になって宇宙の謎を解き明かしたい!」と思っている方もいらっしゃるかと思います。

実際に天文学者がどんな生活をしているのかについては、過去のISASメールマガジンにも紹介されています。

第211号:天文学者の天体観測時間(土居明広さん)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2008/back211.shtml

第374号:天文学者?!(和田武彦さん)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2011/back374.shtml

第425号:天文学者の心躍るとき(白旗麻衣さん)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2012/back425.shtml


そこで今回は、「天文学者になるためには」というテーマでお話ししたいと思います。

天文学者になるための一つの方法は、大学「院」で天文学を専攻することです。大学院とは、大学で基礎的な勉強をした上でより専門的に学問を学びたい学生が進学するところです。
通常、天文学者(博士)になるためには5年間大学院で勉強(研究と呼ぶことが多いです)を行います。
4年制の大学に進んだ場合、大学で4年間・大学院で5年間ですので、天文学者(に限らず博士)になるためには、9年間しっかり勉強や研究をおこなう覚悟が必要になります。

高校生の読者やその親御さんの中には「大学から天文学を学ぶことはできないのか」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
ここ数年で少しずつ状況が変わりつつありますが、実は大学から本格的に天文学を学べるところは少ないです。従って、多くの人は大学では数学や物理学などの天文学を学ぶ上で必要不可欠な科目をしっかり勉強することになります。私も大学では物理学科に入学し、大学院で天文学を専攻しました。

宇宙を学べる大学・天文学者のいる大学
新しいウィンドウが開きます http://phyas.aichi-edu.ac.jp/~sawa/2013.html

というホームページがあるので、興味のある方は見てみてください。

また、大学院に入れば誰でも天文学者になれるわけではありません。博士論文という論文を書き、博士論文審査会というものに合格しなければいけません。博士論文は英語で書くのが普通ですし、審査会では時には2時間以上審査員の方々の前で発表しなければならないのです。審査員はその道の専門家ばかりですので、時には厳しい質問もきます。そういった質問にしっかり答え、自分の研究が価値のあるものとして認められたとき、初めて天文学者になる(=学位を取得する)ことができるのです。

ちなみに私の研究テーマは、宇宙に浮かぶ「ドーナッツ」の観測的研究です。(このテーマに興味をもっていただいた方や、なぜか急にドーナッツが食べたくなった方は、本文後半をご覧下さい。)


いかがでしょうか。

ここまで読み進めていただいた方の中には、天文学者になるのは想像以上に大変だと感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、実際に5年間宇宙研で研究してみて感じるのは、「宇宙に魅力を感じつづけられるか」が天文学者になる上でとても大事だということです。

もちろん、相応の覚悟と努力は必要不可欠です。しかし、一度宇宙への情熱が冷めてしまうと、9年間努力し続けるのは至 難の業です。

では、どうやって宇宙への情熱を維持し続ければ良いか。それは自分が宇宙に興味をもった原点にかえることなのではないかと思います。

私の場合は、満天の星空を見に行くことで「あー。やっぱり自分は宇宙が大好きなんだな。」と実感しモチベーションを維持し続けることができました。

また、高校生や大学生が参加できる宇宙関連のイベント(文末にいくつか載せましたのでご覧下さい)に自身もスタッフとして参加し、彼らと触れ合うことで宇宙に憧れていた高校・大学生の頃の気持ちを思い出すことができました。


学校で理系科目の成績が悪くて..とか、
計算苦手で..とか
天文学を専攻したら就職できなさそう..とか
心配は尽きないかもしれませんが、それだけで天文学者になることをあきらめないで欲しいです。(私が高校生の時は物理は赤点ぎりぎりでした。また天文学を専攻したがために路頭に迷った人は私の知る限りいません。宇宙関連企業に就職できるかどうかは別問題ですが、少なくともどこにも就職できないということはないと思います。)


好きだからこそ、がんばれる。
好きなことを自分の職業にできたらこんなに幸せなことはない。

ぜひ、このような気持ちで目標に向かって進んでいただきたいと思います。


最後にこの言葉で締めくくりたいと思います。


私が夢だった天文学者になれたのはきっと
若き日の“ドキドキ”を信じたからです
もしあなたが何かの瞬間
抑えきれない心臓の高鳴りをきいたら
信じてみてください


宇宙好きのみなさんの中にはお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。
そうです。
大人気漫画、「宇宙兄弟」に登場する金子シャロン博士の言葉です。

私にとっての “ドキドキ” は小学生の時に祖父母の家で見た満天の星空でした。
自分が天文学者になれた最大の理由は、シャロン博士と同じで、あの時の胸の高鳴りを信じたからに他なりません。


みなさんにとっての “ドキドキ” は何でしょうか?


(鳥羽儀樹、とば・よしき)

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私の研究テーマについて

ここでは私の研究テーマ「宇宙に浮かぶドーナッツ」ついてお話しします。厳密さを多少犠牲にする代わりに、分かりやすさ・イメージのしやすさ重視でお話ししたいと思います。


我々は、太陽のまわりを回る地球に住んでいます。太陽のような「恒星」は宇宙には無数にあります。約1000億個の恒星 の集団を「銀河」と呼び、我々も「銀河系」と呼ばれる銀河の一員です。宇宙にはこのような銀河が1000億個程度あると考えられています。(そういう意味では宇宙は星の集合体というよりは銀河の集合体という言った方が良いかもしれませんね。)


また最近の研究から、ほぼ全ての銀河の中心部には太陽の100万倍から時には10億倍もの質量をもつ「超巨大ブラックホール」があると考えられています。「一家に一台、○○」という言葉がありますが、今の宇宙はまさに「一銀河に一つ、超巨大ブラックホール」という時代にあるようです。

さらに面白いことに、その超巨大ブラックホールのまわりには、塵やガスがドーナッツ状にとりまいていると考えられています。これが、宇宙に浮かぶ「ドーナッツ」です。天文学者は「ダストトーラス」と呼んでいます。

ブラックホールも我々人間と同じように「食べれば太る」わけなのですが、ブラックホールにとっての「食料」とは何でしょうか。答えは「周りにあるもの全て」です。ブラックホールはその強い重力で周りにあるもの全てを吸い込みます。ブラックホールの立場になって考えてみると、自分からある距離 離れたところに食料(塵やガス)がドーナツ状にあることになります。そういう意味でドーナッツは、ブラックホールの「成長」に大きく関わっているのではないかと私は考えています。ブラックホールは、ドーナッツが大好物なのかもしれないのです。(私みたいに)

私は、このドーナッツを赤外線天文衛星「あかり」などを用いて観測し、その素性に迫るという研究を行ってきました。詳しい話はここでは省略しますが、このドーナッツは主に赤外線で輝いていることがで知られています。(あったかいドーナッツ。焼きドーナッツみたいなイメージでしょうか。)赤外線で宇宙を見た「あかり」はドーナッツから出る かすかな赤外線も捉えることができるので、ダストトーラスの研究に最適な衛星と言えます。


この春から天文学者としての新生活をはじめる私は、今後もこのドーナッツに着目して、研究を進めていきたいと思っています。特に気になるのは、137億年の宇宙の歴史の中で「ドーナッツはいつ・どのようにしてできたか」です。ドーナッツの作り方、みなさんも知りたくありませんか?


残念ながら、「あかり」だけではこの謎を解明するのは難しいのですが、我々の研究グループが現在開発を進めている次世代赤外線天文衛星SPICAなら、その答えにたどり着けるのではないかと私は考えています。


いつか「宇宙に浮かぶドーナッツの作り方」というタイトルで論文を書ければいいなと夢見る鳥羽の研究紹介でした。

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赤外線天文衛星「あかり」については
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/index.html
をご覧ください。

「あかり」を用いた私の研究成果は
Toba et al. 2013, PSAJ, 65, 113
にあります。


赤外線天文衛星SPICAについては
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/SPICA/SPICA_HP/index.html
をご覧ください。


高校生向けの宇宙体験企画としては、

・きみが作る宇宙ミッション
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/

・銀河学校
新しいウィンドウが開きます http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/OUTREACH/GS/

・もしも君が杜の都で天文学者になったら。。。

・星の学校

などがあります。


大学生向けの宇宙体験企画としては

・すばる望遠鏡・観測研究体験企画

・国立天文台野辺山宇宙電波観測所「電波天文観測実習」
新しいウィンドウが開きます http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/OUTREACH/GS/

などがあります。


高校生・大学生向けの宇宙体験企画としては

・スペーススクール
新しいウィンドウが開きます http://edu.jaxa.jp/education/participation/space_school/

などがあります。

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※