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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第494号

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ISASメールマガジン   第494号       【 発行日− 14.03.11 】
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★こんにちは、山本です。

 東日本大震災から 今日で3年になります。
メディアの報道も多くなっていますが、【継続する】【忘れない】ことが大切だと感じています。

 震災からの復興には時間がかかります。
自分にできることを 無理せず 続けていきましょう。

 町田市と相模原市は、今日3月11日にライトダウンキャンペーンを実施します。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kankyo/23984/027998.html
 ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.city.machida.tokyo.jp/smph/kurashi/kankyo/setudenshoene/torikumi/lightdown.html

 灯を消して、月齢10日の月を眺めるのはどうでしょうか

 今週は、太陽系科学研究系の今村 剛(いまむら・たけし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:大雪と惑星大気
☆02:相模原キャンパス見学案内
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★01:大雪と惑星大気


 他の惑星で雪が降ったという話ではありません。


 今年2月(2014年)、東日本の広範囲で記録的な大雪となりました。JAXAでも、臼田宇宙空間観測所の深宇宙用パラボラアンテナの土台部分が雪に埋もれて一時使用不能になるということがありました。

世界に目を転じると、今冬は北米大陸で強い寒波の南下により記録的な低温を記録し、被害が出ています。一方、南半球のオーストラリアは記録的な猛暑です。


 過去を振り返れば、記録的な猛暑や寒波、大雨や干ばつはあちこちで生じています。

地球温暖化のせいで極端な気象が起こりやすくなっているという説がありますが、それは今日のテーマではありません。ある年に大雪や猛暑が襲っても次の年にはそうでもない、そして何年か経ってまた記録的な〇〇が来るといった、年による違いが生じる理由についてです。


 このような異常気象は、偏西風の蛇行など大気の循環パターンが変化することで生じます。しかし、循環パターンが年によって違うことはわりと不思議です。

大気の循環、すなわち風は、太陽光による加熱が地理的に偏っているために生じます。たとえば、太陽が真上近くまで昇る熱帯地方は極地方よりも強く熱せられます。

加熱の分布は季節や大陸配置の影響も受けます。こうして場所によって温度が違ってくると、高気圧や低気圧が生み出され、風が吹きます。ここで、太陽光による加熱は毎年同じ季節変化を繰り返すということに注意してください。毎年同じように加熱されるなら毎年同じように風が吹きそうです。


 そうはならないのは、数年とか数十年といった時間スケールで変化する部分が地球環境の中にあって、それが1年を越えて大気に影響するからです。

たとえば海です。気温や風の影響で海水温や海流が変化すると、その変化は1年ではリセットされないでその先何年も続くので、次の年以降も大気に対して新たな変化を促します。

このような海と大気の相互作用が、たとえばエルニーニョ現象のような、予測しがたい複雑な変動をもたらします。


 海がない惑星にはこのような異常気象はなさそうですが、どうでしょうか。


 地球よりひとつ外側の惑星、火星。ここでは、ダストという小さなちりが風で舞い上がって火星全体の空を真っ暗にする「グローバルダストストーム」という嵐が、数年から数十年に一度発生します。火星最大の異常気象と言って良いでしょう。

グローバルダストストームが年によって起こったり起こらなかったりするのは大きな謎です。火星大気はとても薄いので、暖まりやすく冷めやすい性質を持っています。そのため、気温は太陽光による加熱にすみやかに応答して、毎年同じ季節にはほとんど同じ温度になり、「異常」気象など存在しないはずなのです。


 最近の火星探査によって、地面に降り積もったダストが風によって少しずつ移動していることがわかってきました。

地面のダストの分布が変わると、ダストの舞い上がりやすさや、太陽光による地面の暖まりやすさが変わるはずです。長い年月をかけてダストの分布が変化し、それがある状態に達したところでグローバルダストストームが発生する・・といったシナリオも考えられます。

海のかわりに、火星では地面のダストが大気と相互作用することによって異常気象を引き起こすのかもしれません。


 地球よりひとつ内側の金星では、上空で吹く強い東風の速さが年によって違うことが知られています。それとともに硫酸の雲の明るさも変化しています。

過去数十年の間に、雲の材料となる二酸化硫黄が2回ほど急激に増加したこともわかっています。


 金星では火星のようにダストが舞い上がることはないので、大気そのものに秘密があるのでしょう。

金星の大気は地球大気の100倍もの濃さなので、大気と海の中間的な性質を持ち、何十年という長い時間で変化する性質を持つのかもしれません。

ただ、金星は自転軸の傾きがとても小さく、太陽からの距離も1年の間でほとんど変わらないので、季節変化がありません。それなのに大気が安定した定常状態にならないのは、ちょっと不思議です。


 こうした研究がすぐに地球の異常気象の理解につながることはないでしょう。ただ、海のない惑星では気候変動のメカニズムが地球に比べて単純だったり、あるいは、地球では注目されていないメカニズムが他の惑星では強く現れていたりするかもしれません。

そこから、複雑すぎる地球の環境変動を解きほぐすアイデアが得られたり、新たなメカニズムを見いだしたりすることには、大いに期待しています。


 先月の大雪を思い出しながら、来年(2015年)の末に「あかつき」が金星に到着するとき金星の風はどうなっているだろう、そのころ地球ではどのような気象が起こっているかしら、などとぼんやり考えています。

(今村 剛、いまむら・たけし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※