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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第488号

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ISASメールマガジン   第488号       【 発行日− 14.01.28 】
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★こんにちは、山本です。

 26日(終了しましたが)から3週連続で【宇宙学校】が開催されます。ふくしま、おきのえらぶ、つるがしま、と 毎週出かける阪本校長先生は体調管理が大変そうです。

 今週は、学際科学研究系の篠原 育(しのはら・いく)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:科学データも断捨離するのか?
☆02:宇宙学校・おきのえらぶ 【2月2日(日)】
☆03:JAXA特集:未来を拓くイプシロン
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★01:科学データも断捨離するのか?

 年末の大掃除で、あまり物を捨てられずに、結局、部屋を片付けられずに新年を迎えてしまいましたが、そんな経験は私だけのことではないですよね。さて、今回は、蓄積された科学データについての話題を紹介させていただきたいと思います。

折角、科学衛星で観測したデータであっても、ほったらかしにしておいたらば、大掃除とともに捨てられてしまうカモ!? というお話です。


 宇宙研の科学衛星運用・データ処理センターで運用するシステムにアーカイブされている衛星・探査機からの科学データの大きさは、「かぐや」の100TB(テラバイト)超クラスのデータを筆頭に、現在、総容量で約400TBになります。

巷で言われている“ビッグデータ”とよばれるものや、JAXAの地球観測センターで扱っている地球観測衛星のデータの規模に比べれば桁違いに小さいものですが、データをアーカイブとして失われないようにきちんと保管し、利用者に便利に使えるようにサービスを継続することには人知れぬ苦労があります。


 このような苦労をしてまで科学データをアーカイブする意義はざっと4点あると考えています。

1.データから得られる結果の再現性、普遍性を保証する

 科学の世界では、結果の再現性・普遍性が求められます。データ解析の結果は、第三者によって再現できなければ、信頼できるものとは言えません。宇宙をはじめ、自然現象の観測においては同じ現象が再び観測されることは難しいので、ある観測事実について誰でも解析を可能にするために、データをアーカイブすることはとても大切です。


2.データの寿命を延ばして未来の研究を支援する

 宇宙や地球を相手にする研究では、時に現象の時間スケールはとても長いものになります。数年〜数十年といった時間の変動でも、ほとんどの場合、衛星の寿命より長いので、観測時期の異なる別の衛星のデータを集めて解析する必要があります。過去の衛星データを利用し続けることができるようにすることはとても重要です。


3.データ利用の裾野を広げる

 衛星プロジェクトに近い研究者だけで生み出すことのできる成果は非常に限られています。しかし、データを世界に広く公開すれば、多くの研究者にデータが使われることで、より大きな成果が期待できます。

さらに、将来には元々のプロジェクトが想定した使われ方とは異なる新しいデータの利用がなされることがあるかもしれません。公開データアーカイブは、データ利用者の幅を広げる基盤です。


4.科学データを通して国際社会に貢献する

 莫大な費用をかけて開発された科学衛星によって取得された科学データは、人類共通の貴重な財産です。科学衛星プロジェクトは国際的な協力と競争の中で遂行されるものですが、貴重な科学データを最終的には人類の共通財産とすることで国際社会への貢献に繋がります。


 大上段に振りかぶって、データアーカイブの意義を紹介してみましたが、実際には、この意義を実現するために、プロジェクトが終了した後も長期間データを“使えるように残しておく”ことは、思ったより大変なことです。

なぜならデータは、それだけでは不十分で、何を、いつ、どの観測機が、どこで、どのように取得し、どのように処理された結果なのか、が読み解けるようになっている必要があるからです。

これは当たり前のことではありますが、複雑な観測機器になればなるほど、これらの付帯情報の範囲は広がるので、情報収集にはとても気を遣う必要があります。データを折角保存していても、付帯情報が不十分だと、科学データとしての信頼性が低くなって、利用されなくなってしまうかもしれません。


 こうした労力を経て整備されるデータアーカイブですが、データ量が膨大になるにつれてその維持・管理には経費がかかります。古い科学データが、衛星プロジェクトが現役であった頃と同様に成果を挙げ続けられるかというと、古くなればなるほど利用率は下がる傾向があります。

最近どこの国も昨今の厳しい経済状況ですから、海外では、こうした古くなった・ほとんど使われなくなったデータ等、貴重な科学データにすら“断捨離”が求められるような動きもでているようです。

もちろん、維持・運用のコストとデータの利用性のバランスを考慮しなければならないことは言うまでもありませんが、「データ利用率が低い」のような評価軸のみでデータを消去してしまっては、そもそも先に述べたデータアーカイブの意義すら否定されてしまいます。


 幸い日本では科学データに対して「維持経費がないので捨てる」のようなことはありませんが、こうした悲劇を防ぐために、私たちは、遠い将来の利用にも耐えうる信頼性の高い科学データを後世に引き継ぎ、かつ、アーカイブの維持・運用もできるだけ合理的・効率的に行えるように努力していきたいと考えています。

大掃除の時も、頑張って捨ててしまった物に限って、直後に「あればよかったのに!」と思うものですよね。そんなことが貴重な科学データに対して起こらないように、データアーカイブへの皆さんのご理解とご支援をお願い致します!

(篠原 育、しのはら・いく)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※