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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第486号

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ISASメールマガジン   第486号       【 発行日− 14.01.14 】
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★こんにちは、山本です。

 16日(木)は、月が今年最も地球から遠ざかり、満月と重なっているので、今年最も小さく見える満月が観測できます。また、今年最も大きく見える満月は、8月11日(月)です。

 先週ISASでは 新年恒例となっている「宇宙科学シンポジウム」が開催されました。今年で14回目の開催ですが、年々ポスターセッションの会場が広がって、周りの廊下にまでポスターが張り出されていました。

 今週は、広報・普及主幹の阪本成一(さかもと・せいいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
☆01:新年のご挨拶:所長 常田佐久
★02:イトカワ微粒子巡回展示開始
☆03:イプシロンロケットが「2013年日経優秀製品・サービス賞
    最優秀賞 日本経済新聞賞」を受賞
☆04:臨時休館とWebサービス停止のお知らせ
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☆01:新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。
新年のご挨拶を申し上げます。

 昨年はイプシロンロケット試験機が成功し、小型科学衛星「ひさき」を軌道に乗せることができました。軌道投入精度、音響・振動環境などの乗り心地にも成果を出すことができ、また小型衛星標準バス技術の確立ができたことも大きな成果と考えております。

 2014年度の「はやぶさ2」の打上げに引き続いて、2015年度は小型科学衛星ERGとX線天文衛星ASTRO-Hの打上げ、2016年度はBepiColomboの欧州宇宙機関による打上げが予定されております。

 宇宙科学はJAXAの他の事業と並んで、JAXAの戦略を支える中核の一つであり、進行中のミッションの完遂に加え、新規ミッションの立ち上げなど挑戦すべき課題は多岐にわたりますが、皆様のご期待に応えるべく職員一丸となってこれらに取り組む所存です。

2014年1月
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所
所長 常田 佐久

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★02:イトカワ微粒子巡回展示開始

 みなさま新年おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。
実は新年早々からイトカワの微粒子の巡回展示が始まっていますので、今回はそのことについて書くことにしましょう。


 小惑星探査機「はやぶさ」の再突入カプセルが地球に帰還したのは2010年6月のことでした。サンプルキャッチャーと呼ばれる小部屋に収められていた小惑星イトカワの表面物質は、その後国内の研究者たちによって解析され、いくつもの重要な初期成果が得られました。

特に重要なのは、石質隕石のうちのLLコンドライトと呼ばれるものがS型小惑星のかけらであることが実証されたことでしょう。

要は、望遠鏡で見ていた数十万個の小惑星の世界と、顕微鏡で見ていた数万個の隕石の世界という2つの集団を、点と点ではありますが一つの線でつないだということです。これは、ロゼッタストーンがヒエログリフと古代ギリシャ語の対応を解き明かしたことに似ていると私は思っています。


 ほかにも、
イトカワの母天体は直径20km以上にまで成長し、内部は800℃ほどに上昇し、その後母天体はゆっくり冷えたこと。
そこに小天体が衝突し、その衝撃で母天体は破壊され、その破片の一部が互いの重力で寄り集まってイトカワとなったこと。
形成当時は現在より明るく白っぽい色をしていたが、宇宙風化によって表面の色が次第に暗くなり、現在の姿となったこと。
などが推定されています。


 私自身は電波天文学が専門で、さまざまな観測により状況を推定するのですが、隕石などの物質科学の話を伺うたびに、すごいことまですごい精度で分かるものだといつも感心します。


 微粒子の回収やカタログ化の作業は現在も日夜進められていますが、解析の準備の整った微粒子については、国際研究公募に供され、特に特徴的なものについてはコンソーシアムと呼ばれる科学者グループを作って共同で研究が進められています。


 キュレーションチームによる回収と選別を受けたあとの貴重な微粒子の一つは上野の国立科学博物館で2013年7月17日から常設展示されており、本格的な顕微鏡を用いて詳細な観察や操作体験ができるようになっています。

「はやぶさ」の実物大模型をはじめ、ペンシルロケットの実機や、若田光一宇宙飛行士がスペースシャトルで回収した宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)の実機なども同じフロアで展示されています。


 実はキュレーションチームからはもう一つの微粒子が教育普及用に提供されました。国立科学博物館での公開に合わせて7月17日から(7月28日までの期間限定で)相模原市立博物館で展示したのをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。公開に至る経緯についてはチームを率いる安部正真さんが2013年8月20日発行のISASメールマガジン第465号に「イトカワ微粒子公開の裏話」として紹介しています。
(⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2013/back465.shtml

 私たち宇宙研広報に託された貴重な微粒子を有効活用するためには、「はやぶさ」のカプセルと同様に全国で一般公開するのがよさそうです。そこで、展示に協力してくださる団体を募集することにしました。


 貸し出しの内容は、フランジに入ったイトカワ微粒子と、実体顕微鏡、照明用LEDライト、それらを収めるハウジングと、微粒子から分かったことについて紹介するパネルのセットです。「はやぶさ」の模型などもオプションで付きます。


 微粒子を封入してあるフランジは、蓋こそガラスに交換してありますが、世界中の研究者に微粒子を配布するのに実際に用いられているのと同様のものです。

キュレーションチームのアドバイスを受けて選定した実体顕微鏡も、汎用のものではありますが、キュレーションチームが実際に使用して「手垢のついた」ものです。汎用かつ小型の実体顕微鏡を導入したのは全国巡回に向けた私なりのこだわりで、このおかげで安い輸送費で巡回できるようになりました。

肉眼だけでなくCCDでも同時に撮像して大画面に投影できるようにしましたので、直接ご覧いただく前に、これから見るものがどのようなものなのかを事前にシミュレーションいただくこともできます。


 実体顕微鏡とLEDライトを収めたハウジングは新規に製作したもので、子どもたちが見たときに接眼部などに力が加わって壊れたりしにくいように、各地の科学館での顕微鏡や双眼鏡の展示状況を視察させていただき、設計に反映させてあります。

あまり複雑なものにしても仕方ありませんから、双眼なのにアイピースの間隔は調整できなくなったりしていますが、短時間で両眼でみることができるのは熟練者のみでしょうから、どちらか利き目でご覧いただければいいと割り切りました。


 今回巡回展示されるのは粒径55μmのカンラン石で、実体顕微鏡で形が分かるサイズです。微粒子の55μmという粒径を感じることはなかなか難しいのですが、番手の違う紙やすりを用意しておけば手触りで感じられます。

今回「はやぶさ」が持ち帰った最大の粒子の粒径は約300μmですので、紙やすりだと40番の程度、今回巡回に回す粒子は180番、多くの微粒子は30μm程度以下ですから、(大きなものを手触りとして感じやすいとして)1000番程度に相当します。


 この微粒子にはRA-QD02-0191という整理番号がつけられています。

最初の2文字(RAないしRB)はどこから回収されたかを示しており、RAとは“Room A”すなわちサンプルキャッチャーA室のことで、2回目のイトカワ着陸時に用いられた側です。

A室については最初テフロンのへらで擦り取る方法もとられましたが、QD02とあるのは石英ガラス板(quartz disk)の2番に落ちていたものという意味で、回収容器をひっくり返して側面を叩くという自由落下法により回収されたものです。

そのほかに蓋(cover)から直接ピックアップする方法(CV)でも回収されています。


 すでにこの公募に関しては全国各地から希望が寄せられています。
手始めに1月7日から2月23日まで、はまぎんこども宇宙科学館で、アポロが持ち帰った月の石や「ちきゅう」が掘削した地球深部のコアサンプルなどとともに、この微粒子が展示されています。

件の紙やすりも、ホームセンターで各種買い込んで科学館の担当者にお渡ししておきましたので、きっとわかりやすく展示してくださっていることでしょう。


 これから巡回展示は全国を回ることになるでしょう。ぜひ会場に足をお運びいただき、かつてない微小な手がかりから太陽系形成の謎を解き明かそうとする科学者たちの挑戦の一端に触れていただきたいと思います。

(阪本成一、さかもと・せいいち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※