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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第484号

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ISASメールマガジン   第484号       【 発行日− 13.12.31 】
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★こんにちは、山本です。

 2013年も今日で終わりです。
(決して大晦日まで仕事をしている訳ではありません)

 1/1〜1/2を除いたお正月休み(12/28〜1/5)には、通常 土・日・祝日限定 のロケット音響体験を実施します。
また、展示解説員も居ますので、解説を聞いたり質問にも答えてくれます。

生協の売店も1/5まで休みです。
ISASグッズも欲しい方は、6日以降の平日に相模原キャンパスへお越しください。
追加情報:売店前のカプセルトイ販売機は利用可能です。同室のTさんは「はやぶさ」を当てて大喜びでした。

 今週は、太陽系科学研究系の山ア 敦(やまざき・あつし)さんです。
「ひさき」の初期観測について書いてくださいました。
(参考:プレスリリース
 ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.jaxa.jp/press/2013/11/20131126_hisaki_j.html

お正月休みに、ゆっくりお楽しみください。

 それでは みなさま 良いお年を

── INDEX──────────────────────────────
★01:わがはいはきょくたんである
☆02:何もない空(そら)を光らせるもの 「あかり」が空の赤外線成分の分離に成功
☆03:宇宙学校・ふくしま【こむこむ】2014年1月26日(日)
☆04:臨時休館のお知らせ
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★01:わがはいはきょくたんである

・名前は「ひさき」、内之浦出身との見当である

 例年になく暑い今年の夏をさらに熱く盛り上げたイプシロンロケット試験機の打上げオペレーションが内之浦宇宙空間観測所で実施された。みなの記憶に新しいに違いない。約二万人にも見守られ、宇宙デビューを果たした望遠鏡がわがはいきょくたんである。

打上げ日の二度の延期にみなと同様わがはい自身もやきもきしたが、結局9月14日14時(日本時間)に無事打上がった。約1時間後にはイプシロンロケットから分離、予定の地球周回楕円軌道(高度はおよそ9550kmから1150kmの間)に投入され、「ひさき」と命名されたのである。2020年オリンピック東京開催が決定されたころ、あまちゃん主人公が帰郷したころの出来事だ。


 打上げ後いったい何をしていたかというと、搭載機器の機能・性能に関する初期試験に勤しんでいた。地上試験で実施済みのコマンドを受信し、各機器が地上試験と同様に正常に動作するか確認する。一緒に星になったネッシーちゃんも含めてだ。

まだわがはい達が地上にいたときは常に身近にいたプロジェクトメンバーも、今では目の届かない距離にいて、出力する電気信号のみを頼りに健全性を判断する。しかも、地球一周約106分のスピードで飛翔するわがはいと、地上のアンテナ局が連続した通信可能時間は長くても20分程度。この間に、コマンドを受信し、各機器を動作させ、電気信号を出力することを何日間も繰り返してきた。試験結果はほぼ完璧の出来と満足している。


・わがはいの初観測である

 各機器の機能確認完了後は、衛星全体の総合的な性能確認試験である。特に重要な試験は、観測対象となる惑星像をぶれないように補正する姿勢制御系機器と観測機器である望遠鏡との連携動作の性能評価だ。

望遠鏡が捉えた惑星像の重心位置を姿勢制御系に伝達し、目標位置からのずれを軽減する向きに姿勢修正する機能である。計算機はフル稼働することとなり、わがはいも少なからず緊張した。

結果はプレスリリースでの既報のとおり、設計通りの性能を有し、科学観測に供することができることを確認された。お褒めに預かった気分である。


 見慣れないファーストライト観測結果について少々説明しよう。

ファーストライトの絵は、縦方向に黄道面内の一次元空間の広がり、横方向に極端紫外光の波長が記されている。わがはいは、地球の外気圏の中から木星・金星を観測する。外気圏とは、高度1000km以上で主成分は水素、ヘリウム、酸素の各原子である。距離の近い地球外気圏の光は大きく見えるので、ファーストライトの絵では縦方向(空間的)に目一杯広がった線となる。

地球とほぼ同サイズで遠くにある金星の光は小さく見え、縦方向(空間的)に広がらず点として観測される。ガリレオ衛星イオの公転軌道領域まで広がっている木星の光はわがはいからも大きく見え、縦方向(空間的)に伸びた線として観測した。

横方向(波長方向)には光が離散的に測定した。これは光を発する粒子(酸素原子、炭素原子、硫黄イオンなど)に固有の波長で光が放たれることが理由である。逆に観測波長から発光成分を同定することが可能となるのである。


・よく訊かれる質問がある

 プロジェクトメンバーから聞いた話だが、

わがはいの「角」はなぜあんなに鋭角なのか?

という質問がよくあるらしい。相模原キャンパスの展示室の説明員からもそんな声が届く。

簡単に答えると、太陽に近い角度に存在する内惑星(金星と水星)を観測するときに太陽光が望遠鏡の中に入らないようにするためである。といわれてもぴんと来ないかもしれないな。そんな時は、信号機のひさしを思い描いてほしい。

地上にある信号機には、色がはっきり分かるように日蔭を作るひさしがついていることが多い。太陽の方向上側で長く、下側で短いことに気付く。もし、下側のひさしが長かったら、を想像してみる。下側のひさしの内側で太陽光が反射して信号灯とかぶり、色が見づらい。これではひさしの意味がない。


 さらに信号機を注意深く観察すると、信号機によって上側ひさしの長いものがあること、ひさしの長い方向を西向き(場所によっては東向き)に回転させてあることに気づく。太陽方向にひさしを長く伸ばすのである。

つまり、信号機が光を放つ方向と、太陽方向のなす角が小さいほど長いひさしが必要となる。太陽に近い金星を観測するわがはいと同じ原理である。


・これからの計画である

 まず、来年(2014年)の元旦から2週間、ハッブル宇宙望遠鏡、ハワイをはじめとする世界各所の赤外望遠鏡・可視望遠鏡・電波望遠鏡など20以上の施設で木星を観測する。

また、4月にはX線天文衛星「すざく」も木星を観測する。もちろんわがはいも木星を観測する。きょくたんの名が示す極端紫外光観測と、波長の異なる赤外線、可視光、X線の木星像を比較・連携解析することで、木星磁気圏の理解が深まることが期待される。


 さらに、この時期には金星も観測好機を迎え、木星協調観測の間には観測対象を切り替えて金星からの大気流出の観測を実施する予定である。生命を育む地球がどのように進化したのか、大気進化の理解が進むことも期待される。


 2014年1月6日の木星は衝を迎え、太陽ー地球ー木星と一直線に並ぶ。地上からも夜間中ずっと木星が明るく輝いているのが見えるだろう。是非、みなも一緒に夜空を見上げてほしい。

宇宙でも地上でも世界中の望遠鏡が木星を見ていることに思いを馳せていただければ、ありがたやありがたや。

(山ア 敦、やまざき・あつし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※