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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第475号

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ISASメールマガジン   第475号       【 発行日− 13.10.29 】
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★こんにちは、山本です。

 2週続きの台風が去って、やっと秋がやってきたようです。サクラやアメリカハナミズキが急に紅葉しています。

 今週の相模原キャンパスは 特に目立った行事も無くて、廊下を行き交う人も少ない感じです。
冬のシンポジウムの季節に向けて 準備中 と言ったところでしょうか

 今週は、宇宙飛翔工学研究系・イプシロンプロジェクトマネージャの森田泰弘(もりた・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:みんなの夢をのせてイプシロンが翔んだ!
☆02:宇宙学校・東京ー【東京大学駒場キャンパス】(11月3日)
☆03:内之浦宇宙空間観測所 施設特別公開(11月10日)
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★01:みんなの夢をのせてイプシロンが翔んだ!

 みなさんの応援に支えられて、9月14日、待望のイプシロンロケット試験機が内之浦宇宙空間観測所から無事に打ち上がりました。

M-Vロケットを運用終了してからの長かった7年間も、いま振り返るとあっという間であり、私たちが辿って来たいばらの道も今振り返ればまっすぐな一本の道筋として見えるような気がします。しかし、開発の道中はまるで地図も磁石も持たない冒険のようでもありました。

そんな私たちが自信を持ってここまで来ることができたのは、ロケット関係者のみなさんの励ましや全国の宇宙ファンのみなさんの応援のおかげです。まさに多くの人たちが一丸となった素晴らしい成功だったと思います。


 今回のイプシロンの打上げは多くの皆さんに注目していただきましたが、いま宇宙開発はそれに値するような大きな時代の転換点に差し掛かっています。これからは小型・高性能・低コストといいう考え方が大事であって、打上げの頻度を上げてチャンスを増やしていくことが宇宙科学の進歩と宇宙開発利用の発展のためにとても重要です。

今後は大型衛星ばかりでなく、小型衛星を活用して効率よく成果を上げていくことが強く求められているのです。その最初の一歩がイプシロンで打上げた惑星分光観測衛星「ひさき」です。この衛星は世界初の惑星専用の宇宙望遠鏡であり、小さくても夢のある挑戦が可能なことを示すとても大事なミッションです。今まさに新しい時代の幕が切って落とされたと言えるでしょう。


 イプシロンロケットは、このような新しい時代の要請に応え、宇宙ロケット全体の未来を拓くパイロットプログラムです。その目的は、モバイル管制などの世界をリードする革新技術を開拓し、みんなの宇宙への敷居を下げることにあります。

日本の固体ロケットは惑星探査も遂行できる世界最高の性能を誇ってきましたが、イプシロンロケットは、単に機体の性能だけでなく、運用の効率化と設備のコンパクト化を図り、打上げシステム全体を世界最高レベルに最適化することを目指し、見事にこれに成功しました。これまでに比べて、段違いに短期間・少人数・小型の設備で打ち上げることが可能となったのです。

このような革新コンセプトは次の段階では液体ロケットにも応用可能であり、また未来の再使用ロケットにも必ず必要な輸送系共通の基盤技術です。イプシロンはまさに未来に向けた第一歩と言えるでしょう。


 もちろん、モバイル管制のような取り組みはあまりに革新的なので、当初は周囲の反発もありました。

「モバイル管制なんて作って一体なんの意味があるんだ。そもそもできっこないんだからやめておけ」

というわけです。このようなときに大切なのは、計画を推進しようとする私たちの確固とした信念とみなぎる自信です。

M-V終了後の4年間はコンセプトを固めるための研究に費やしましたが、この時期、JAXA内はもちろん、ボランティアの皆さんに集まっていただいた研究会(秋葉研究会)などの場で輸送系の未来に必要な革新技術について議論を尽くしてきました。

その中で生まれたのがモバイル管制のような非常識ともいえるアイディアなのですが、こうした議論をとおして、理解者やサポーターがどんどん増えていき、私たちも揺るぎない自信を深めることができました。

最後はみんなの気持ちが一つになり、合言葉は

「このような革命は我々の未来にとって絶対に必要。しかも今やらないと二度とできない。」

みんなよく頑張って、モバイル管制を本当に実現してくれました。イプシロンロケットチームは世界に誇れる素晴らしいチームだと思います。

もちろん、ロケットは私たちの力だけで打てるものではありません。みなさんは内之浦の町から観測所まで、立派な橋がいくつも架かっているのをご存知ですか?

建設はM-Vロケットの運用中に行われました。それはイプシロンの開発がまだ始まる前のことですから、まさに未来に向かって夢を託して架けた橋と言えるでしょう。私はいつも感動しながらその橋の工事を見ていました。

そんなあるとき、偶然にも町の飲み屋さんで橋の工事の現場監督さんと一緒になりました。形は違っても夢のある仕事をしている二人ですから、すっかり意気投合して楽しい時間を過ごしたんですが、こんなことをぽつりとおっしゃってくれました。

「みなさんは宇宙開発の一番いいところで仕事をしているんですよ。でも、私たちみたいな縁の下の力持ちがいることも忘れないでくださいね。橋が架からなければ、ロケットを運ぶこともできないんですから。」

長い時間をかけた多くの人の積み重ねが最後の瞬間に一つになって、あの美しい打ち上げにつながっていく。やっぱり、ロケット開発って素晴らしいですね。


 7年間の研究開発も長かったですが、5月から始まったフライトオペでも大いに鍛えられました。ご存知のように、発射直前の延期はイプシロン自慢の自動監視システムが緊急停止をかけたというものです。原因は、搭載の計算機と地上の計算機(モバイル管制システム)の時刻差の設定に不備(バグ)があったのが原因です。

自動監視システムはイプシロン開発の目玉であり、そのコンセプトは、

「人間の至らない部分を見破って未然に事故を防ぐ」

ということにあります。この意味で、今回の緊急停止は開発コンセプトどおりに正しく機能したと言えます。もちろん、見破られたのが単純ミスであったことは深く反省すべき材料です。しかし、人的ミスを100%排除することは難しく、今回のように新しいことに挑戦するときには、習熟するまで練習を繰り返し、いわゆるバグを出し尽くすという戦法が重要です。

今回のイプシロン開発では、M-V時代は1回だったリハーサル相当の試験を3回に増やして万全を期しましたが、挑戦する革新コンセプトのスケールの大きさを考えると、なお足りなかったということでしょう。

全国の宇宙ファンの皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳なかったのですが、追加のリハーサルを通して最後の準備は万端整い、本番のフライトはまるで練習のように順調で美しいほどのものでした。これが7年間のみんなの研究開発の成果であり、全国の宇宙ファンの皆さんの声援の結晶なのだと深く感銘を受けました。


 イプシロン試験機のフライトは素晴らしかったと思いますが、イプシロンの挑戦はまだ始まったばかりです。これから私たちは新たな革新に挑戦し、夢のさらに向こうに向かって走り続けたいと思っています。

既にイプシロンの2段階開発構想としてお知らせしているように、高性能低コスト化イプシロンという形で、段階的に打ち上げシステムの改革とコストパフォーマンスの向上を図る計画です。これにはある程度の開発予算が必要なので、性能やコストなどの目標について、関係の皆さんと相談を始めたところです。

こうした取り組みは、宇宙利用をさらに活性化し宇宙をもっと身近な世界にしようという私たちの長期的戦略の大事なステップになります。皆さんのご理解と変わらぬご支援を引き続きお願いしたいと思います。

(森田泰弘、もりた・やすひろ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※