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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第472号

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ISASメールマガジン   第472号       【 発行日− 13.10.08 】
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★こんにちは、山本です。

 週明けの月曜日、いつものように8時頃出勤すると、普段は清掃のクリーナーの音だけが響いている玄関ホールが何となくワサワサしています。

聞こえてくるのは、どうも日本語ではないようです。
見学対応の守衛さんに話を伺うと、今日からの国際会議のために前日からロッジに宿泊している外国の研究者の方達だそうです。

 それにしても1階展示室で見かけた人数ではちょっと少ない感じが……2階のロビーに上がっていって謎は解けました。30人ほどの外国の方達が談笑していたからです。

 そして、さらに見かけない光景が、H先生が朝からスーツ姿で私を追い越していき、従えていた(?)事務方の人(だと思われる)に、英文の案内表示を指示していました。H先生は、今回の国際会議の世話人だそうです。早朝からご苦労様です。

 今週は、宇宙科学広報・普及主幹の阪本成一(さかもと・せいいち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:幻のL-4S-6号機
☆02:宇宙学校・東京ー【東京大学駒場キャンパス】(11月3日)
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★01:幻のL-4S-6号機

 ISASニュース(2013年9月号)にも載せたのですが、ここのところ内之浦の開所50周年などの周年事業が続いている関係で、黎明期から初期にかけての日本の固体ロケットの調査を進めています。目先の業務も山積していますが、世代交代により失われつつある実物資料や証言を後世に遺すにはあまり後回しにもできないからです。


 ペンシルロケットについては2012年度の相模原市立博物館での企画展をきっかけに十数機の実機の存在を確認し、種類の同定を進めたところですが、これに加えてベビーやカッパ、ラムダなどについての調査も進めています。

最近特に進んだのはL-4S、特に「幻のL-4S-6号機」についての調査です。


 L-4Sは1970年2月11日に日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した4段式の固体ロケットで、3段式のL-3Hに第4段を追加することで地球周回軌道への投入を目指したものです。“4”は4段式であることを、そして“S”は4段目に球形モータを用いていることを意味しています。

ランチャの実物と、ロケットの実寸模型は、国立科学博物館の一角で屋外展示されています。軍事転用の懸念を払拭するために世界唯一の「無誘導方式」をとったほか、世界最小の人工衛星打ち上げロケットでもあります。


 この「無誘導方式」あるいは「重力ターン方式」と呼ばれる方法は、単に風任せ、重力任せで打ち上げたように誤解されますが、空力安定とスピン安定で飛翔し第3段燃焼終了後に、デスピンモータでスピンを止め、1回だけ水平方向へと姿勢制御を行って、リスピンモータで再度スピン安定させたのちに、第4段に点火するという方法です。

デスピンモータには、燃焼を止めることのできない固体ロケットでスピンを止めるために、双方向に開いたノズルの片側に蓋をしておき、スピンが止まったところで蓋をあけてニュートラルにするという工夫がなされていました。これはその後のMロケットにも引き継がれていきます。


 1966年9月の1号機以来、途中漁業問題による1年半ほどの中断もあり、4号機まではどれも軌道投入に至らず、さまざまな改良を加えて5号機でようやく軌道投入に漕ぎつけました。

文献を見ると、テレメトリのデータを慎重に解析することでひとつひとつ不具合原因をつぶしていった先輩方の努力のようすがよく分かります。


 ところでこのL-4Sについては、5号機が不首尾に終わった場合に備えて6号機の準備も進められていたようです。しかしながら、5号機の打ち上げ成功に伴ってキャンセルされ、フライト品が残りました。これらは開発を担当した各研究室などで個別に管理されてきましたが、その所在が明らかになりつつあります。

特に印象的だったのが、第4段モータケース(燃焼試験済み)です。布にくるまれ、段ボール詰めされた状態で構造機能試験棟の一角で発見され、箱を開けると焦げた推薬の刺激臭が周囲に広がりました。

そのほかにも、別の研究室には6号機用の精密加速度計などが保管されていることが分かりました。また、OBが管理されていたノズル(燃焼試験済み)がサプライズプレゼントとして私宛てに宅配便で届きました。ノズルの脇には小さく”L4S6”の刻印が残っています。これらはいずれも、幻の「おおすみ2号」の構成要素なのです。


 加速度計、温度計に加え、第4段点火用コマンドタイマ、サブブースタ電源、さらには姿勢制御装置のような大物まで見つかりました。それにしても、よくもこれだけのものが人目に触れず保管されてきたものです。


 これと並行して、国立科学博物館での調査も進めました。

地球館2階の、イトカワ微粒子の展示コーナーの隣に展示されている「おおすみ」に似た機体は、とんがり帽子(4段目計器部ハウジング)の形状が実際の「おおすみ」とは異なり、かなり縦に長いように見えます。

L-4Sは号機ごとに搭載計器類が異なりましたので、それを反映したものと思います。手元に写真があるL-4S-2号機の4段目にむしろ似ています。


 そこで、許可を得て展示台に上がらせていただき、ハウジングの中やノズルの内側の調査も進めました。

まず、ハウジングの中はほとんどからっぽでした。それもそのはず、少なくとも6号機用の機器類は相模原にあるのですから。また、ノズルは燃焼試験を経たものですが、スロートの部分が細く、またライナも燃焼の熱でボロボロになっており、試作段階で製作されたもののように見えました。これはこれで貴重な資料のように思います。


 私が管理しているL-4S関係の資料は相模原キャンパス展示室で常時公開を行っています。

予備的な調査結果については日本天文学会2013年度秋季年会で報告を行いましたが、今後さらに聞き取り調査などを進め、より充実とした資料としたいと思っています。

(阪本成一、さかもと・せいいち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※