宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2013年 > 第465号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第465号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第465号       【 発行日− 13.08.20 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 立秋を過ぎたあたりからアカトンボを見かけるようになりました。
『秋きぬと目にはさやかに見えねども……』(古今集)
なんて 感慨に耽っては入られないほどの【猛暑・酷暑】の毎日です。

 ISASでは 契約電力量を超える危険があるということで、更なる【節電】に励む毎日です。
 熱中症対策を万全にして残暑を乗り切りましょう。

 お盆の週は過ぎましたが、まだ夏休みを取っている人や、「SPRINT-A」衛星の打上げのために 内之浦実験場に出張している 人も多いので相模原キャンパスは比較的静かです。


 今週は、太陽系科学研究系の安部正真(あべ・まさなお)さんです。
「イトカワ微粒子公開の裏話」を書いていただきましたが、相模原市立博物館での微粒子公開は、7月28日で終了しています。

これから微粒子を見たい人は上野の国立科学博物館へ!

── INDEX──────────────────────────────
★01:イトカワ微粒子公開の裏話
☆02:2013年度第二次気球実験(8月19日〜)
───────────────────────────────────

★01:イトカワ微粒子公開の裏話

 2013年7月17日より、国立科学博物館と相模原市立博物館でイトカワの微粒子公開が始まりました。(注:相模原市立博物館での公開は7月28日で終了しています)

今回は、その公開に至るまでの裏話をしたいと思います。


 「はやぶさ」は2010年6月に地球に帰還し、小惑星イトカワのサンプルを地球に送り届けることに成功しました。その帰還に至るまでの話は、複数の映画にもなって、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

また、帰還する際にサンプルを大気突入の熱から守った、ヒートシールドと呼ばれる耐熱材は、全国の巡回展示などでも公開され、地球と小惑星を往復した人工物を実際に目でご覧になられた方もいるかと思います。


 このように、「はやぶさ」についてはこれまでに皆さんの目に触れる機会が少なからずあったのですが、「はやぶさ」が得た科学的な成果については、なかなか皆さんにお伝えする機会がありませんでした。


 「はやぶさ」は、小惑星からのサンプルを持ち帰るという、技術的な目標を掲げたミッションですが、小惑星近傍での科学観測や、持ち帰ったサンプルの分析を通して、私たちの太陽系の歴史を紐解くために重要な成果を上げることができています。

「はやぶさ」が地球に送ってきた小惑星イトカワの画像は、私たちに大きな驚きをもたらしました。我々が思っていた以上にいびつで、岩がゴロゴロしていたのです。また重力測定の情報から、内部はすかすかで、瓦礫が寄せ集まってできたような天体だということがわかりました。このような姿は、小惑星が天体同士の衝突の結果作られていることを物語っています。

私たちの地球も、小惑星と同じように、天体同士の衝突によって大きくなって現在の姿になったと考えられています。しかし、大きくなり過ぎたこともあって、内部が一度熔けてしまい、形成前の情報を失ってしまっています。それに対して、小惑星は、そこまで大きくはならなかったため、現在の姿になる前の情報を残していると考えています。


 これまでの分析では、持ち帰ったサンプルが、ある種の隕石と関係があることがわかりました。これにより、これまで隕石で調べられていた、太陽系の古い情報を小惑星につなげて理解することができます。隕石と小惑星はこれまでも関係があると言われてきましたが、実際のどのタイプの隕石がどの小惑星と関連があるかわかっていませんでした。つまり、隕石がどこから来たのかわからないという問題があったのですが、「はやぶさ」はこの問題を解決しました。

また、最新の分析では、小惑星で起きた衝突の歴史や、小惑星イトカワが形成されてから小惑星表面で起きている現象などが詳しく調べられています。こういった分析により、小惑星イトカワは、現在の姿より一度大きなサイズまで成長したにも関わらず、他の天体との衝突で一度ばらばらになり、その破片の一部がお互いの重力によって集まって再形成されたということが明らかになりました。こういった考えは昔から提案はされていましたが、「はやぶさ」で初めて実証され、その後の惑星科学の世界では標準的な考え方になりました。


 以上のように、「はやぶさ」の科学的な成果は十分に得られているのですが、それを皆さんにもっと知ってもらうためにもサンプルを公開するのがよい、という考えがイトカワからのサンプルを持ち帰ったことに成功したとわかった時点から様々な声として上がっていました。

ただし、貴重なサンプルでまずは科学的な成果を上げることが優先されたことと、公開に際して、貴重なサンプルをいかに科学的な価値を損なわないで提供するかという問題がありました。


 「はやぶさ」帰還から3年が経ち、科学的な研究は今も進められていますが、国際公募研究も2回目に入り、比較的落ち着いてきています。後者の問題についても、研究者への粒子提供と同様な密閉容器に入れることで、損なわない方法は早い段階で確立はしていましたが、容器に入れたまま、光学顕微鏡で観察しやすい状態にするためには、様々な工夫が必要でした。

これらの技術開発は、通常のキュレーション業務と並行して進められ、所外のメーカーの協力も得て、ようやく公開できるに至りました。


 公開する粒子の選定は、やはり将来の研究者への提供を優先して決められていますが、光学顕微鏡でも形や色具合が確認できる程度の大きさで、研究者への提供と将来の分析への保管分を確保してもまだ余裕のある0.05mm程度のものになりました。

また、複数の鉱物で構成されている粒子は、研究者の希望も多く、今回の公開粒子は、かんらん石の単結晶が選ばれています。


 粒子の見どころとしては、かんらん石特有の色具合でしょう。地球のかんらん石もペリドートと呼ばれる宝石にもなっていますが、イトカワの微粒子もそれに負けないくらい輝きを持っています。特に、「はやぶさ」のサンプルは、小惑星にあったそのままの姿で地球に持ち帰ることができたので、小惑星表面にいたときに起きたであろう、衝突や粒子移動に伴う、割れた面が見えたり、削れて角が取れていたりしているのがわかります。また、表面にはさらに小さな極微粒子が付着していて、光の当て方によっては粒子がきらきらと輝いて見えます。


 「はやぶさ」のサンプルに値段はつけられませんが、できるだけ多くの方に、見ていただいて、宇宙に思いを馳せていただく機会になればと思っています。

(安部正真、あべ・まさなお)


国立科学博物館
新しいウィンドウが開きます http://www.kahaku.go.jp/

小惑星イトカワの微粒子公開について
新しいウィンドウが開きます http://www.kahaku.go.jp/news/2013/download/itokawa.pdf
展示場所:地球館2階 日本の宇宙開発コーナー

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※