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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第458号

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ISASメールマガジン   第458号       【 発行日− 13.07.02 】
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★こんにちは、山本です。

 部屋の外で合歓(ねむ)の花が咲いています。
20数年前に、駒場から相模原に移転してきた際に職場の先輩が植えたものです。

 その頃は、丈が低くて1階の居室の窓からなかなか見ることが出来なかったのですが、今は2階に居室が替わり、見違えるほど大きくなった合歓の花を目の前に見ることが出来ます。

 そういえば、関東の「梅雨」は何処へ行ってしまったのでしょうか?
このところ雨が降りません。今夏の水不足は大丈夫でしょうか?

 今週は、はやぶさ2プロジェクトチームの細田聡史(ほそだ・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:八百万の神々と百万の願い
☆02:肝付町宮原一般見学場イプシロンロケット打ち上げ事前申込について
☆03:小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子公開
   (国立科学博物館・相模原市立博物館)
☆04:宇宙学校・かのや【リナシティかのや】7月14日(土)
☆05:星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン2
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★01:八百万の神々と百万の願い

こんにちは、はやぶさ2イオンエンジン担当の細田です。
先日、岡山県真庭市の『中和神社』に参拝して来ました。「はやぶさ」をご存知のかたはピン!とくる名前です。というわけで、今日は神仏に関するお話を少しさせて頂きます。


「誰も見てなくても善い行いをしなさい。
  お天道さまがちゃんと見ててくれるから。」
「静かに手を合わせなさい。仏様(※)がいつも護ってくれているよ。」
※私の解釈では「ご先祖様」

おじいちゃん・おばあちゃん子だった私はそういう考えに日々寄り添って育ちましたので、そういう概念を素直に受け入れつつ、ほどほどに信心深く、日々神仏に感謝の祈りを捧げてきました。

私が生まれたのは愛知の片田舎で、当時ではさして珍しくもない三世帯同居でしたので、子供から老人まで大勢が常に一緒に生活しておりました。田舎の集落という小さいコミュニティですから、外を歩けば田畑で作業している人に常に誰かに声をかけてもらえます。また親戚も多く寺の法事も日常茶飯事だったためか、私の宗教観の背骨になっている「いつでも見守られている」「生老病死は人の常」という考え方は、人生の極々初期にすでに確立していたのだと思います。

その後、縁あって豊川高校という仏教系の高校(経営母体は豊川閣妙厳寺、いわゆる「豊川稲荷」として有名です)で勉強しました。宗教の授業では結跏趺坐(けっかふざ)を組んで坐禅を組んだり、お釈迦様の一生についてなどの知識もつきまして、おかげで「聖おにいさん」の元ネタに反応できたり、「蝉丸Pのつれづれ仏教講座」を熟読する程度には仏教リテラシーがあります。どちらも大変勉強になる本ですので(特に蝉丸Pの本)、表紙に怯まずに手にとってください。

卒業から20年経った今でも暗唱できる母校の校訓
 「和敬・信愛・利他・報恩」は以下の様な意味を持っています。

 和敬:和やかな心情をもって、相互の人格を敬い合う。
 信愛:相互に信じ、相互に愛くしみ合う。
 利他:利己的欲望を制し、社会人類の福祉増進に力を尽す。
 報恩:神仏・天地・父母・衆生(社会)より受ける広大無辺の恩徳を思い、
    感謝報恩の生活を送る。

仏教の考えからの教えでしょうが、私には仏教、神道と区別すること無く受け入れられた考え方でした。


そんな風に育ちましたので、科学者になった今でも八百万の神様への畏れやご先祖様の加護に素直に頭を垂れています。今は実家を遠く離れて二児の父となりましたが、おじいちゃんとおばあちゃんの教えをどうやって子供に伝えたものかと悩みます。

とはいえ、いわゆる霊感みたいなものとはいっさい切り離して考えておりますので、宇宙科学の講演で「宇宙人は居ると思うか?」という質問には何らかの回答を用意しておりますが、
「死後の世界はあるか?」とか
「幽霊はいるのか?というか俺は見た!」
みたいな質問(?)には回答いたしかねます・・・。


話が随分と横道にそれました。
そんな背景がありますので、神社仏閣を訪れるのは好きな方です。受験や試験の前には湯島天神に参拝して、おみくじの結果を非常にポジティブに解釈したものです。

航空宇宙業界で有名になった所もたくさんあります。
「空を飛び来て、衆生を守りたもう、お不動様」として、旅人の守り本尊である飛不動尊は台東区竜泉にあります。「はやぶさ」が行方不明になったとき、プロジェクトマネージャーの川口先生が飛不動尊へお参りしてお札をもらってきたという話を聞いた方も多いかもしれません。管制室のディスプレイには「飛行安泰」という御札がたくさん貼ってありました。

また「日本の航空機の父」として知られる二宮忠八が自宅に建立した「飛行神社」は、饒速日命(にぎはやひのみこと)と航空事故の犠牲者を祀り、航空業界の安全と発展を願っています。


ロケットでは「龍勢(りゅうせい)祭り」が有名です。
毎年10月の第二日曜に埼玉県秩父市の「椋(むく)神社」の例大祭が行われ、その祭の中で「農民ロケット」とも呼ばれる「龍勢」が空高く奉納されます。(他にも静岡県静岡市の「草薙神社」、同藤枝市の「六社神社」、滋賀県米原市などでも同様のお祭りが行われています)

秩父の秋の風物詩として大変人気のイベントで、見学するのも一苦労なのですが、私が修士の学生の時に当時NAL(航空宇宙技術研究所)にいらっしゃった小口美津夫さんとISASの山田哲也先生にお声かけ頂き、龍勢祭りに打ち上げ側として参加させていただくことができました。


名門の東雲流(とううんりゅう)さんの手引きのもと、3本作成した龍勢のうち1本を我々に預けてくれました。とは言え平日は研究のため作業出来ませんし、何より火薬を使いますので多くの部分はお任せするしかありませんでしたが、毎週末に棟梁のお宅まで駆けつけて無心に龍勢を作りました。

竹のタガを逆に巻いて「左っタガは駄目だ」と怒られたり、「燃焼室を星形に繰り抜いてほしい」という要求を柿渋と細い棒で見事に作り上げた龍勢師の腕に感嘆したり、作業の後は毎晩深夜まで龍勢を囲んで宴会をしたりと、学問としてロケットをやっていた自分には何から何までが驚きの連続でした。

「東西、トーザイー、ここに掛け置く龍の次第は〜」祭当日、コスモスが咲き乱れる桟敷席に我らが小口先生の口上が響きます。
「これを椋の神社に ご奉納〜!」
最終的に我らの龍勢は櫓で四散し大空への奉納は叶いませんでしたが、いつも我々を厳しく指導してくれた脇棟梁が「飛ばしてやれなかった。悪かったなあ」と肩を震わせて流した涙に龍勢師の純粋な情熱を見ました。

今年も純粋な想いを乗せて、沢山の龍勢が奉納されることでしょう。天に向かって一直線に駆けて行くロケット、私には鎮魂の象徴に見えました。忘れえぬ思い出です。


ではイオンエンジン縁の神社はどうでしょうか?
実は「はやぶさ」が地球帰還する直前に参拝した神社があります。

地球帰還の大詰め、エンジンAの中和器とエンジンBのイオン源をタスキ掛けで組み合わせる「クロス運転」を始めました。イオンエンジンは、イオン源から噴出されるプラスの電荷を持ったイオンと等量の電荷の電子を同時に放出しなければなりません。このバランスが崩れると、せっかく苦労して放出したイオンが戻ってきてしまい、推力を発生させることが出来ないのです。クロス運転による中和はイオンエンジンを動かす最後の手段でした。

クロス運転を初めて一息ついた頃、川口先生はメンバーに向かって
「電子とか中和という名の付く神社は無いか?」
と尋ねたそうです。これに対して私の上司である西山先生が、岡山県の山奥に「中和神社」を発見して報告すると、週明けにはそこで戴いたお札が管制室のイオンエンジン当番のキーボードの前に置かれていて非常にびっくりしたのを覚えています。

本当は、中和と書いて「ちゅうか」神社と読むのですが、果たせるかなイオンエンジンは完走し、その霊験あらたかさは我々が身を持って知るところです。


この中和神社、地元では「くるまどさん」の愛称で、牛馬の守護神として崇敬されているようです。神社の境内には牛の絵が祀られれいました。主祭神は久那止神(くなどのかみ)で、伊邪那岐命が黄泉の国から帰る時に、黄泉比良坂を大きな岩で道を塞いだ古事があり、この時の岩をつかさどった神が久那止神だということです。中和の名前で訪れた神社ですが、「はやぶさ」の帰路の安全にはこれ以上無い神様だったということです。

先日6月15日、所用で中国地方を訪れた際に「中和神社参拝ツアー」という有志の企画に参加させて頂きました。幹事さんがインターネットと地元の新聞で参加者を呼びかけたところ、地元岡山を始め栃木、山口からも参加者が集まり、下は小学校2年生、上は御年80歳のご婦人という、興味深い取り合わせでありつつも和やかなバスツアーとなりました。

中和神社では宮司さんにもお集まり頂き、現在開発中の「はやぶさ2」の道中安全を祈念した祝詞をあげていただきました。代表して玉串を奉納させて頂きましたが、まだ「はやぶさ2」の完成に向けて全力投球中の身ですので、敢えて祈らずに、頑張るという誓のみをたてて参拝しました。まだやれることがあるうちは祈る前に頭と手を動かしたい。そんな気持ちからの行動です。

参拝後に境内を見回すと「西山」と書かれた奉納品が目にとまりました。宮司さんによると西山先生のお父様からの奉納品とのことです。すでに社会人として、また研究者として一本立ちしている息子さんに出来ることは少ないと知りつつも、子を想う親として神様に祈りを捧げる。そんな深い愛情を垣間見た気がします。

ツアー道中の会話から、参加者の皆さんの宇宙科学への願いや次の世代に活躍してほしいという祈りをひしひしと感じました。また一つ何かを背負った気がします。アスリートでもなんでもない科学者が、多くの人びとの想いや願いを託される。これは重くも幸せなプレッシャーであります。

粛々と準備をすすめる「はやぶさ2」ですが、初号機同様にターゲットマーカーに登録してくれたお名前を刻み、一緒に旅をしてもらうキャンペーンを実施しています。今度は「はやぶさ」初号機には無かった、再突入カプセルへのメッセージ搭載も行います。


キャンペーンも7月16日で締め切りとなります。
メッセージの編集作業では、我々「はやぶさ2」関わる人間が、宇宙と太陽系の謎に挑戦する私たちの事業への圧倒的な共感を目の当たりにし、自信をもって前進するための勇気を与えてくれることでしょう。どうぞ皆さんの思いの丈を我々にぶつけてください。 受け止めた想いの数だけ、新しい「はやぶさ」が高く遠く舞ってくれると信じて、今日もイオンエンジンの作業を続けます。

合掌(-人-)

(細田聡史、ほそだ・さとし)


星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン2(7月16日(火)締切)
新しいウィンドウが開きます http://www.jspec.jaxa.jp/hottopics/20130329.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※