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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第456号

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ISASメールマガジン   第456号       【 発行日− 13.06.18 】
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★こんにちは、山本です。

 台風がやってきて、急に梅雨らしくなりました。
真夏とは違うムシムシとした暑さに体が順応していません。

 体調を崩さないように梅雨を乗り切って、7月末の『特別公開』にお出かけください。
(⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/event/2013/0726_open/index.shtml

 その前、今週21日(金)には 次世代赤外線天文衛星SPICA講演会があります。
申し込まれた方は、体調に留意して参加ください。

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の北川幸樹(きたがわ・こうき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:なにで宇宙に行くの? ハイブリッドでしょ!
☆02:JAXAインタビュー:まだ見ぬ生命を深海・宇宙に求めて
☆03:「高エネルギー電子、ガンマ線観測装置」(CALET)開発におけるJAXAとイタリア宇宙機関(ASI)の協力について
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★01:なにで宇宙に行くの? ハイブリッドでしょ!


 皆さんは宇宙へ行ってみたいですか?

 私は、仕事としてではなく、できれば気楽に旅行気分で宇宙に行ってみたいと思っています。やっぱり、どこかに行くのであれば、出張ではなく、プライベートで行った方が楽しいですよね。


 そんな夢を持った人がたくさんいるのでしょうか、ITバブルの影響もあってでしょうか、これまで国が主導していた宇宙開発が、今、民間ビジネスの手に掛かり、一般人でも宇宙に行ける時代がやって来ようとしています。


 まずはその入口として、弾道飛行による宇宙旅行が注目を浴びています。弾道飛行とは、人工衛星などのように地球の周りを回る軌道に入るのではなく、ロケットなどで高度を上げ宇宙空間に到達した後、そのまま降下して地上に戻ってくるという放物線を描くような飛行をすることです。

弾道飛行であればロケットは小さくても良く、低コスト、低リスクで宇宙に行くことができます。民間企業はそこを狙って、宇宙旅行ビジネスを始めようとしています。今、世界中で多くのベンチャー企業が宇宙旅行ビジネスに手を挙げていますが、その中でも比較的進んでいるアメリカのベンチャー企業の計画をいくつか以下に紹介します。


・Virgin Galactic

 Virgin Galactic社は高度110kmに達する弾道宇宙旅行ビジネスを進めています。母機となる飛行機「WhiteKnightTwo」に宇宙船「SpaceShipTwo」を搭載し、スペースポートから離陸し、高度15kmに達した後に、「SpaceShipTwo」を発射します。

固体燃料として合成ゴム、酸化剤として亜酸化窒素を用いたハイブリッドロケットエンジン使って加速し、高度110kmまで到達した後、特殊な翼を使って姿勢を制御しながら降下、滑空して着陸します。パイロット2人と乗客6人の8人乗りです。

既に試験飛行も実施されており、間もなく打ち上げサービスが開始されるのではないかと思われます。宇宙旅行費用は、およそ2000万円に設定されており、既に数百人と契約を交わしています。将来的には、年500人の観光客を宇宙へ送る計画とのことです。


・XCOR Aerospace

 先日、俳優の岩城滉一さんがXCOR Aerospace社の「Lynx Mark I」という機体で宇宙旅行を行うことを発表したことで、話題になりました。「Lynx Mark I」は、飛行機のような翼をもった機体で、液体酸素とケロシン(灯油のような燃料)を推進剤とした液体ロケットエンジンを4基搭載しています。

パイロット1人と乗客1人の2人乗りで、飛行機と同じように滑走路を走って離陸した後、高度60kmまで到達し、飛行機と同じように着陸するそうです。一般的には、国際航空連盟(FAI)が定義している高度100km以上を宇宙と言っていますが、高度60kmでも上を見れば真っ暗で下をみれば地球が丸いことを感じることができるようなので、宇宙に行った(宇宙を感じた)と言っても過言ではないかと思います。

来年には打ち上げサービスを開始すると公表していますが、まだこれから試験飛行を重ね、商業飛行許可を取得する予定となっています。宇宙旅行費用は、およそ1000万円となっています。


・Blue Origin

 Blue Origin社では、垂直離着陸再使用型の弾道飛行ロケット「Blue Origin New Shepard」の開発を進めています。通常のロケットのように垂直に打ち上げ、高度100kmに達した後に、人が乗っているクルーカプセルとエンジン機体部分を分離し、クルーカプセルはパラシュートで着陸させ、エンジン機体はエンジンを燃焼させ垂直に着陸させるという計画です。

エンジンは、過酸化水素とケロシンを用いた液体ロケットを採用しています。乗員は3人以上となっています。これまでに、垂直離着陸の試験に成功していますが、まだ研究開発段階のようで、具体的な打ち上げサービスの内容は不明です。


 いずれも、実際に機体やエンジンを作って、実用に向けた試験が繰り返されています。民間による宇宙旅行は間近だと感じますね。

 では、日本はどうかと言いますと、有人宇宙旅行を掲げている企業や団体はいくつかありますが、まだアイデアや研究の段階で、実現にはまだまだ時間のかかる状態です。技術があっても、ビジネスモデルが成立してもまだ難しいと思います。

私は、日本で有人打ち上げを行う場合には、大きな壁があると思っています。それは、「安全」という壁です。日本で、ロケットに人が乗る場合、100回に1回事故が起きると言えば、認められないでしょう。1000回に1回でも認められないでしょう。

乗員に被害が起こる事故は、絶対に起きないと言えなければ認められないでしょう、おそらく。現状実用化されている固体ロケットや液体ロケットでは、それを言うのは非常に難しいと思います。

では、どうすれば良いのでしょう?
私の専門に話を持っていきますが、ハイブリッドロケットであればそれが実現可能です。

ハイブリッドロケットは、主に液体酸化剤と固体燃料を用いたロケットです。燃え難いのが欠点ですが、燃え難いのが最大の利点でもあります。液体酸化剤と固体燃料を別々にロケットに積んでいるので、通常では混ざり合うことはなく、思いがけず着火して大爆発することなどは無く、本質的に安全なロケットなのです。

何か故障したとしても、乗員に被害が起こる事故は絶対に起きないようにできると、私は信じています。

ハイブリッドロケットは安全性だけでなく多くの利点があるため、近年、世界的にも注目を浴びており、日本でもJAXAの他、全国の大学や研究機関でも研究開発が行われています。私もその研究者の一人ですが、個人的には来る民間宇宙旅行時代の波に日本も乗り遅れることがないように、安全面を重視してハイブリッドロケットの研究開発を進めたいなと思っています。


「なにで宇宙に行くの?」
「ハイブリッドでしょ!」

となる時代を目指して。

(北川幸樹、きたがわ・こうき)


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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※