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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第449号

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ISASメールマガジン   第449号       【 発行日− 13.04.30 】
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★こんにちは、山本です。

 GWの狭間の平日、雨の予報が薄日が射し強風の相模原キャンパス
何となく人が少ない感じがします。

 休暇を取ってまとめて休んでいる人もいますが、
メールの返事に【 @内之浦 や @米国(例えば)】などと署名があって、国内外への出張の人もいます。

 今、相模原キャンパスで一番賑わっているのは、大勢の一般見学者がいる研究・管理棟の展示スペースでしょうか

 今週は、学際科学研究系の福家英之(ふけ・ひでゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:お天気と航空宇宙と私
☆02:129億年前の初期宇宙に、最強スターバースト銀河を発見
☆03:次世代赤外線天文衛星SPICA講演会(6月21日(金))
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★01:お天気と航空宇宙と私

♪小ぬか雨降る御堂筋のように、
雨は夜更け過ぎに雪へと変わるように、
なごり雪も降るときを知るように、
長崎は今日も雨だったように、
雨雨ふれふれもっとふれと恋しく思うように、
ドラムを叩いて嵐を呼ぶように、
晴れたらいいねとヒラリと飛び越えるように、
あの紙ヒコーキをくもり空わって明日になげるように、
お天気はさまざまな歌に表現されてきた。というのはなぜか。
それは誰しもが少なくともそこそこには天気に関心があるからであろう。


折り畳み傘を持っていこうか、
今日は布団を干せるだろうか、
タンスの衣替えはいつにしようか、
暑い日はアイスクリームを多く仕入れようか、
寒くて乾燥する日はご飯を炊く前にコメを長めに水につけようか、
雷鳴が近づいてきたらヘソを隠そうか、
皆いろいろな局面でお天気を気にするのである。


 そして、航空宇宙においても天気は重要な要素であり、とりわけロケットの打上げの際にはその実施可否判断に大きな影響を与える。
強風ビュービュー? ダメダメ。
強い雨ザーザー? あ〜、それもダメだね。
雷ゴロゴロ? ロケットに雷が落ちるのはイヤだよ〜。
モクモク積乱雲の中を通過することだって避けたいのに〜。
打上げの轟音の迫力とは裏腹に、実に細やかな気配りをもって運用されているのである。


 大気圏を一気に突き抜けるロケットのみならず、大気中を飛翔する飛行機や気球なども気象と無縁ではいられない。離陸時はもちろんのこと、飛翔経路に沿っての対流圏や成層圏の風もまた考慮に入れなければならない。

たとえば我々が北海道大樹町で実施している科学観測用の大気球実験は、対流圏界高度10数km付近のジェット気流と気球浮遊高度30数kmの成層圏の風とが逆向きに吹く時に行われ、それによってブーメランのように気球を放球場所の近くまで戻してから回収できることが知られているが、これもまた季節風という気象現象を活用したものである。

天候への留意は航空機の着陸時においてもむろん大切であり、また、気球の回収や宇宙往還機の地球帰還などを海上で実施する際には波高や海流などもポイントとなる。


 そのためJAXAの関係者もまたさまざまな場面にて気象を気にかけることが多く、天気図と睨めっこをしたり、音波やら電波やら光やらゾンデ気球やら気象ロケットやらを上空へ飛ばして得られる大気のデータを調べたり、人工衛星から地球を見降ろして気象を調べたり、しゃぶった指先をかざして風向きを調べたり、ツバメが飛ぶ高さを調べたり、朝霜が降りているかを調べたり、下駄を飛ばしてその表裏を調べたりするのである。


 近年、異常気象が叫ばれることが常態化しつつあり、異常なことが通常というなんだかよく分からない状態になっているようにも見える。世界中の各地で、熱波だの猛暑だの干ばつだの寒波だの大雪だの大雨だの集中豪雨だの季節外れの台風だのと、極端な気象や突発的な現象が報じられている。

異常気象の原因としては、ジェット気流などの偏西風が大きく蛇行し停滞することによるブロッキングとか、エルニーニョのような海水温変動が世界的な気候変化に波及するテレコネクションとか、大気中の二酸化炭素の増加に伴うグローバルウォーミングとか、都市の開発によるヒートアイランドとか、いやいやそもそも長期的な時間スケールで見たらこれは異常ではないとか、いろいろな話がある。

が、なにはともあれ、平年値から大きく外れた天候や予測不可能な気象は一般的な航空宇宙活動においてもあまり歓迎されることはでない。げに、穏やかな気候の回復を願うばかりである。


 話のついでに上空に目を転じ成層圏やその上の中間圏の風を眺めると、我々にはあまりなじみのない気象を見ることもできる。たとえば、低緯度域の成層圏の風向きは約26ヶ月周期で変動している。また、さらに上の上部成層圏や中間圏には約半年周期の変動も見られる。1年12ヶ月周期の季節変化に慣れ親しんでいるためか、半端な周期での変動はどうもしっくりこない。

また、高緯度域の成層圏では数日間の短い間に気温が数10度以上も突然上昇することがある。ときには1週間で70度以上とか1日で30度以上とかの突然昇温もあり、異常気象もシャッポを脱ぐ急変ぶりである。これらの高層現象を日常の天気の中で実感することはないだろうが、地球スケールでのダイナミックな大気の運動の結果として起こっていることであり、あながち無関係でもないのかもしれない。


 古来より人類活動と深く結び付いているお天気。航空宇宙との関わりも深いお天気。その理解と予報と活用のため、世界各地や宇宙にて継続的に観測を重ねたり、海洋学や気象学や超高層物理学の融合を進めたり、地磁気変動や太陽活動や他の惑星の大気現象を参考にしたり、遠く離れた蝶の羽ばたきと一ヶ月後の嵐との関係を調べたりして、コップの中から全球規模までの多様なスケールにて多角的なアプローチで気象への理解を深めることが今後も一層求められるのであろう。


 そうして今日もまた、青い空に浮かぶ白い雲をぼんやりと眺めつつパスティーシュ風に想いを馳せるのであった。

(気象予報士 福家英之、ふけ・ひでゆき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※